アイセルの正論に何も言えないでいた俺に、
「ケースケ様。もしここがダンジョンの中じゃなかったら、わたしはケースケ様を放って1人で行っちゃうとこなんですからね?」
アイセルはいたずらした子供を叱るみたいに、人さし指を立てて「めっ!」って感じで怒ってくるのだ。
怒るというより諭すといったほうがいいかもしれなかった。
「ですがこんな危険なところでケースケ様を放りだしたら、それこそ死んじゃいます。わたしは己の生ある限りケースケ様を絶対に死なせないと、そう固く固く誓っていますのでそんなことは決してしません。だから心を鬼にして叩いたんです!」
「何を偉そうに……アイセルに……おまえに俺の何が分かるってんだ……エルフの魔法戦士なんて恵まれた職業についてるお前に……バッファーで要らないモノ扱いされて、好きな女を寝取られて、勇者パーティを追い出された俺の何が理解できるってんだよ……」
レベル120になっても1人じゃDランク討伐クエストすらこなせない不遇職の俺の惨めな気持ちが、恵まれたお前に分かるってのかよ?
「分かりますよ」
だけどアイセルははっきりとそう言ってみせたのだ。
「……なんだと? もういっぺん言ってみろ」
俺の気持ちが分かるだと?
たとえアイセルであっても、その発言だけは許さない――、
「はい、何度だって言っちゃいます。ケースケ様の気持ちがわたしには分かります」
「いい加減に――」
「だってわたしはケースケ様をずっと見てきたんですから。夜眠った後にわたしを抱きしめながらアンジュさんの名前を切なく口走るケースケ様を、わたしは毎晩見てきたんですから」
「なん、だって……? 俺が……そんなことを……?」
「はい」
「まさか――」
寝ている間に。
無意識のうちとはいえ。
俺はそんな酷いことを毎晩アイセルにしてきたのか?
「あ、いえ。責めてるわけじゃないんです。でも想い人が、自分ではない他の誰かを見て。大切な誰かにだけ見せる特別の想いを目の前で見せつけられる──そんな悲しくてただ見ているだけしかできない気持ちは、だからわたしにもよく分かるんです」
「アイセル……」
毎晩毎夜、自分とは違う名前を呼ばれながら抱きしめられて、でも見ているだけしかできなかったアイセルは、どれだけ悲しかったことだろう?
「もちろん全部分かるとは言いません。だけど半分――は無理にしても1/3か1/4くらいは分かるんじゃないかなって思います。いえ、分かってみせます。他の誰でもない、ケースケ様のことですから」
「……」
アイセルから告げられた思わぬ事実を前に、俺はどうしようもない程に言葉を失っていた。
「わたしは優しいケースケ様が大好きです。全然戦えなくても懸命にできることをやるケースケ様が大好きです。クサヤ・スカンク玉で悪臭にまみれながら必死に戦うケースケ様が大好きです。いろんな知識を親身に教えてくれる物知りなケースケ様が大好きです。わたしを大勇者にしてやるって言ってくれたケースケ様が、わたしは大好きなんです」
「アイセル……」
「いろんなケースケ様をわたしはずっと間近で見てきたんですよ。分からないはずがないじゃないですか」
「…………」
心に込み上げるものを言葉にできないまま俺が無言でアイセルを見つめていると、気持ちはもう十分に伝えたとばかりに、アイセルも同じように黙って俺を見つめ返してきた。
そのまま見つめ合うこと30秒ほどで、
「まったく、アイセルにはかなわないな。はぁ……10才も離れた相手に諭されて慰めてもらって励まされるとか、俺は本当にどうしようもないヤツだな。救いようがないよ」
俺は苦笑いしながら言った。
いつの間にか心が少しだけ軽くなっていた。
「それならご安心を。だってわたしはそんなところも含めてケースケ様のことが大好きなんですから。ケースケ様が、大大大大大好きなんですから!」
満面の笑顔でそう言うと、アイセルが元気よく飛びついてくる。
言葉だけでなくハグでも想いを伝えるんだとばかりに、ぎゅっと抱きしめられて。
だから俺もアイセルをぎゅっと抱き返した。
アイセルの想いが、熱量が、触れあった身体中から俺の中へこれでもかと伝わってくる気がした。
「ケースケ様。もしここがダンジョンの中じゃなかったら、わたしはケースケ様を放って1人で行っちゃうとこなんですからね?」
アイセルはいたずらした子供を叱るみたいに、人さし指を立てて「めっ!」って感じで怒ってくるのだ。
怒るというより諭すといったほうがいいかもしれなかった。
「ですがこんな危険なところでケースケ様を放りだしたら、それこそ死んじゃいます。わたしは己の生ある限りケースケ様を絶対に死なせないと、そう固く固く誓っていますのでそんなことは決してしません。だから心を鬼にして叩いたんです!」
「何を偉そうに……アイセルに……おまえに俺の何が分かるってんだ……エルフの魔法戦士なんて恵まれた職業についてるお前に……バッファーで要らないモノ扱いされて、好きな女を寝取られて、勇者パーティを追い出された俺の何が理解できるってんだよ……」
レベル120になっても1人じゃDランク討伐クエストすらこなせない不遇職の俺の惨めな気持ちが、恵まれたお前に分かるってのかよ?
「分かりますよ」
だけどアイセルははっきりとそう言ってみせたのだ。
「……なんだと? もういっぺん言ってみろ」
俺の気持ちが分かるだと?
たとえアイセルであっても、その発言だけは許さない――、
「はい、何度だって言っちゃいます。ケースケ様の気持ちがわたしには分かります」
「いい加減に――」
「だってわたしはケースケ様をずっと見てきたんですから。夜眠った後にわたしを抱きしめながらアンジュさんの名前を切なく口走るケースケ様を、わたしは毎晩見てきたんですから」
「なん、だって……? 俺が……そんなことを……?」
「はい」
「まさか――」
寝ている間に。
無意識のうちとはいえ。
俺はそんな酷いことを毎晩アイセルにしてきたのか?
「あ、いえ。責めてるわけじゃないんです。でも想い人が、自分ではない他の誰かを見て。大切な誰かにだけ見せる特別の想いを目の前で見せつけられる──そんな悲しくてただ見ているだけしかできない気持ちは、だからわたしにもよく分かるんです」
「アイセル……」
毎晩毎夜、自分とは違う名前を呼ばれながら抱きしめられて、でも見ているだけしかできなかったアイセルは、どれだけ悲しかったことだろう?
「もちろん全部分かるとは言いません。だけど半分――は無理にしても1/3か1/4くらいは分かるんじゃないかなって思います。いえ、分かってみせます。他の誰でもない、ケースケ様のことですから」
「……」
アイセルから告げられた思わぬ事実を前に、俺はどうしようもない程に言葉を失っていた。
「わたしは優しいケースケ様が大好きです。全然戦えなくても懸命にできることをやるケースケ様が大好きです。クサヤ・スカンク玉で悪臭にまみれながら必死に戦うケースケ様が大好きです。いろんな知識を親身に教えてくれる物知りなケースケ様が大好きです。わたしを大勇者にしてやるって言ってくれたケースケ様が、わたしは大好きなんです」
「アイセル……」
「いろんなケースケ様をわたしはずっと間近で見てきたんですよ。分からないはずがないじゃないですか」
「…………」
心に込み上げるものを言葉にできないまま俺が無言でアイセルを見つめていると、気持ちはもう十分に伝えたとばかりに、アイセルも同じように黙って俺を見つめ返してきた。
そのまま見つめ合うこと30秒ほどで、
「まったく、アイセルにはかなわないな。はぁ……10才も離れた相手に諭されて慰めてもらって励まされるとか、俺は本当にどうしようもないヤツだな。救いようがないよ」
俺は苦笑いしながら言った。
いつの間にか心が少しだけ軽くなっていた。
「それならご安心を。だってわたしはそんなところも含めてケースケ様のことが大好きなんですから。ケースケ様が、大大大大大好きなんですから!」
満面の笑顔でそう言うと、アイセルが元気よく飛びついてくる。
言葉だけでなくハグでも想いを伝えるんだとばかりに、ぎゅっと抱きしめられて。
だから俺もアイセルをぎゅっと抱き返した。
アイセルの想いが、熱量が、触れあった身体中から俺の中へこれでもかと伝わってくる気がした。