再びゴーレムとガチンコのどつき合いをはじめたサクラのバトルアックスが、ゴーレムを装甲の上から強烈にぶっ叩いた。

 装甲の上からなのでさしてダメージは与えられていない。
 だけどサクラはそんなことはお構いなしに、

「いっくよー! 全力全開! おりゃーっ!!」

 装甲の上から嵐のごとくフルパワーでガンガンゴンゴンぶっ叩いていく。
 何度も何度も何度も何度も。

 ただただひたすらに延々と叩き続けるその姿を見て、俺もようやっとサクラの狙いに気付くことができた。

「そうか、狙いはダメージを与えることじゃない、打撃の衝撃でゴーレムのバランスを崩すことだ――!」

 さしものゴーレムもバーサーカーの強烈な乱れ打ちを受けては、平気ではいられない。
 ついにぐらついてバランスを崩し、たたらを踏んだ――そのわずかな隙を見逃すアイセルではなかった。

 バランスを崩したゴーレムの懐深くに、狙いすましたようにアイセルが飛びこんだ。
 アイセルの魔法剣は既に、鞘に『納刀』されている。

「全力集中!」
 アイセルの身体から猛烈なオーラが立ち昇っていく――!

 ゴーレムが態勢を立て直そうとして――しかしそれよりもわずかに先にアイセルの攻撃が発動した。

「剣気解放――! 『《紫電一閃(しでんいっせん)》』――!」

 アイセルが最近覚えた必殺技。
 鞘の中で圧縮した膨大な剣気を抜刀と共に解き放つ、『会心の一撃』が進化した上位スキルだ――!

 ドゴォォォォォォォォーーーーーーンッッ!!

 アイセルの必殺の一撃がゴーレムの腰部を直撃し、大穴を開けて貫通する。

 世界が壊れたかと思うほどの轟音と共に、『カクユーゴーロ』を破壊されたゴーレムが糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

 しばらく油断なく構えてから、ゴーレムが完全に機能停止して動かなくなったのを見て、
 
「ふぅ……」
 アイセルは大きく息をついた。

「アイセルさん、やりましたね!」
 サクラがダッシュで駆け寄り、

「2人ともお疲れさん、よくやったな」
 俺もねぎらいの言葉をかけながら2人のところに向かって歩いていく。

 高難度クエストが無事完了した安心感で俺はすっかり気が緩んでいたんだけど、そこで俺はアイセルの様子が少し変なことに気がついた。

 アイセルは遠くの何かに意識を向けているように見えた。

「アイセル、どうしたんだ?」
 どうにも気になった俺が尋ねると、

「ケースケ様、遺跡の奥から人の気配がします。多分複数です」
 アイセルが真剣な顔をして言ってきた。

「え? それはないだろ? だってゴーレムが入り口にいたんだし」

「いえ間違いありません。ゴーレムが出現する前に運悪く入ってしまったのかもしれません」

「それで出るに出られなくなったってことか」

「もしくは中で別のトラブルが発生したのかもです」

「まぁどっちも無くはないな」

「それと気配はするんですけど、かなり弱弱しい感じです。もしかしたら遭難して動けなくなってるのかも」

「マジか……」
 突然の展開に、俺は状況を整理するべく考えこんだ。

「どうするのよケイスケ、助けにいくの? 私はまだまだ余裕あるけど」
 サクラがバトルアックスを構えて、元気なところをアピールしてくる。

「ケースケ様、どうされます?」

「そうだな……ゴーレムが出るような古代遺跡の中に、無防備に踏み入るのはさすがに危険すぎる」

 これが熟慮の末に導き出した俺の結論だった。

「見捨てるってこと?」

「一応言っておくけど、遭難者とか動けなくなったパーティを救助する義務はないんだ。だから俺は冒険者ギルドに報告することで済ませたいと思ってる」

 事前情報もなく、充分な準備もせずに古代遺跡に入って二次遭難でもしたらシャレにならないからな。

 ランタンや寝袋、非常食といった遺跡探索には必須の装備も持ってきていない。

 だから俺は、俺たちだけで助けに行かないほうがいいときっぱりと告げた。
 ここは安全第一でいったん引くべきだと。

 だけど――、

「ケースケ様、中で遭難してる人がいるのなら、わたしは助けに行きたいです」
「そうよ、見捨てて死んだりしたら寝覚めが悪いじゃない」

「アイセル、サクラ……」

「お願いしますケースケ様」
 アイセルが頭を下げてくお願いをしてきた。

 まったく、こういうところもアイセルは本当に行動原理が勇者らしいよな。
 まずは自分と仲間の身の安全を真っ先に考えて損得勘定してしまう俺とは大違いだ。

「一番奥深くは無理かもだけど、浅いとこまで様子見で行ってみるくらいなら、できなくはないんじゃない?」
 サクラもそんな風に折衷案を出してくる。

 俺はもう一度リスクをしっかりと考えた後――、

「前言撤回だ、助けに行く。ただし行けるところまでだ、安全マージンをしっかりとって無理はしない」

 強くしっかりとした声で宣言した。

「ケースケ様! ありがとうございます!」

 それを聞いたアイセルの顔が喜びでパァッと花開いた。

「これは俺がリーダーとして選んだことだから感謝する必要はないよ。決めたのは俺とアイセルとサクラ、全員なんだからな」

「それでもやっぱり、ありがとうございますです!」

「へぇ、意外と男気あるじゃんケイスケ、戦闘力ゼロのバッファーなのにね」

「だからなんでお前はそう上から目線で一言多いんだよ?」

「もう、褒めてあげてるのに」

「へいへい、お褒めいただきありがとうございました」

 そして決断した以上は余計なことは考えない。
 後悔は後からするものだ。
 こうと決めたら後は目標に向かってやり切るのみだ!

「でも1つだけ言っておくぞ。まずは自分たちの身の安全を守ること。最悪助けるのは諦めて見捨てて逃げることもあるからな。優先順位は間違えるなよ?」

「はい!」
「もちろんだし!」

「じゃあ連戦になるけど行くとするか。助けるなら早いに越したことはないからな」

 俺たちパーティ『アルケイン』は遭難しているパーティを救出すべく、古代遺跡の中へと踏み入った――。



【ケースケ(バッファー) レベル120】
・スキル
S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』

【アイセル(魔法戦士) レベル38→41→42】
・スキル
『光学迷彩』レベル28
『気配遮断』レベル14
『索敵』レベル28
『気配察知』レベル42
『追跡』レベル7
『暗視』レベル21
『鍵開け』レベル1
『自動回復』レベル21
『気絶回帰』レベル21
『状態異常耐性』レベル21
『徹夜耐性』レベル21
『耐熱』レベル21
『耐寒』レベル21
『平常心』レベル28
『疲労軽減』レベル42
『筋力強化』レベル42
『体力強化』レベル42
『武器強化』レベル42
『防具強化』レベル42
『居合』レベル42
『縮地』レベル42
『連撃』レベル42
『乱打』レベル42
『武器投擲(とうてき)』レベル42
『連撃乱舞』レベル28
『岩斬り』レベル28
『真剣白刃取り』レベル42
『打撃格闘』レベル42
『当身』レベル42
関節技(サブミッション)』レベル42
『受け流し』レベル42
『防御障壁』レベル21
『クイックステップ』レベル42
『空中ステップ』レベル42
視線誘導(ミスディレクション)』レベル28
『威圧』レベル28
『集中』レベル42
『見切り』レベル42
『直感』レベル42
『心眼』レベル42
『弱点看破』レベル21
『武器破壊』レベル21
『ツボ押し』レベル42
『質量のある残像』レベル21
『火事場の馬鹿力』レベル21
『潜水』レベル14
『《紫電一閃(しでんいっせん)》』レベル42(『会心の一撃』から進化)

【サクラ(バーサーカー) レベル12→25→28】
・スキル
『狂乱』レベル--
『自己再生』レベル--
『疲労軽減』レベル--
『筋力強化』レベル--
『体力強化』レベル--
『会心の一撃』レベル--

(注:バーサーカーの戦闘スキルは全て怒りの精霊『フラストレ』の力を借りるため、通常のスキルレベルとは完全に切り離されています)