「まぁなんだ。意外とこの世の中はそうじゃないんだよ。だから俺はアイセルを選んだ。アイセルは俺のことを裏切らないって思ったから」

「そんな、ケースケ様を裏切ったりなんてしませんよ!」

「ありがとう。つまりだ。俺は裏切られるのが何より嫌なんだ。アイセルが俺を裏切ったら、俺は絶対にアイセルを許さない」

「は、はい……」
 アイセルが神妙な面持ちで(うなず)いた。

「だけどアイセルが裏切らない限り、俺はなにがあっても最後まで、絶対にアイセルを裏切らない。見捨てもしない。絶対の絶対にだ。なにがあっても、たとえ俺が死ぬことになっても俺はアイセルを裏切りはしない」

「ケースケ様……あの、その、なんだかちょっと恥ずかしいかもです、えへへ……」

 そう言いながらアイセルがなぜか頬を赤らめていた。

 よくわからん、なんだ?
 まぁ今はいいや。

 なんにせよ、俺はもう2度と信じた相手に裏切られるのだけは嫌なんだ。

 でもそれと同じくらいに、相手を裏切る俺になるのだけは死んでもゴメンだった――。

「そういわけでアイセル。俺とパーティを組んでみないか? 期間は……そうだな、とりあえずアイセルが一人前になるまで。その間、一人前の冒険者になるために必要なことは全部俺が教えよう」

「わたしはずっと一緒でも構いませんけど……あれ? でもでもこれだとケースケ様にはメリットが何も無くないですか?」

「俺はその間に金を貯める。実はもうずっと働いてなかったせいで、当面の生活費すら厳しくてな……」

「あ、そうなんですね……わたしと一緒ですね、えへへ。でも本当にいいんですか?」

「アイセルだって成長するにつれて考え方も変わるだろうし、俺はもう半分以上リタイアしてるからな。とりあえずまとまった金が稼げれば、その後のアイセルの未来まで拘束したりはしないよ」

「そんな、ケースケ様はまだまだ全然やれますよ!」

「あはは、ありがと。じゃあアイセルが一人前になって、俺もある程度金を貯められたら、その後のことはまたその時に考えよう」

「分かりました」

「一応形式上はパーティのリーダーは年長者の俺だけど、原則2人で話し合って決める感じで。俺は年の差は気にしないから、思ったことはハッキリ言ってくれて構わない。むしろ黙って不満を貯めこむのはやめてくれ」

「はい」

「それと取り分はきっちり等分にする、端数まできっちりな」

「わたしとしてはまったく異論はありませんけど、いいんですか? 駆け出しのわたしと取り分を等分しちゃって。お金を貯めるのがケースケ様の目的なんですよね?」

「いいんだよ。金で揉めるのが一番馬鹿らしいからな。そこは極力分かりやすく、なるべく平等に気分よくいこう」

 世の中「金の取りあいは命の取りあい」などという物騒極まりない格言もあるくらいだ。
 なんせ金は目ではっきりと見えるからその分、不公平感もはっきりとしてしまう。

 しかもあらゆる欲求のベースになるから、金で揉めるとその先の全てが揉める原因ともなってしまうのだ。
 
「そうまで言われるのでしたら、わたしは異存はありません」

「あとパーティを組めばすぐ分かるけど、戦闘時のバッファーは本当に何もしないから、等分でも不満に感じるかもだぞ?」

「そんなことは決して! あ、そうです、聞き忘れてたんですけどケースケ様ってレベルはいくつなんでしょうか?」

「俺か? そういや言ってなかったか。俺はレベル120だ」

 言いながら、俺はアイセルに俺の認識票を見せてあげた。

「レベル120!? レベルってそんなに上がるんですか!? って、わわっ、ほんとです! でもでも60あれば一流冒険者って言われるんですよ? 100になれば超一流で、現役じゃほとんどいないんですよ? なのに120だなんて!」

「こう見えて俺は、元勇者パーティのメンバーなんでな」

「それでもレベルは上にいくほど上がりにくくなるのに、レベル120だなんて凄すぎますよ……。ううっ、やっぱりわたし無理です、レベル差があり過ぎます。パーティは辞退します」

 見るとアイセルは半泣きになっていた。

 まぁ文字通り桁違い、10倍近いレベル差を見せられれば、臆してしまう気は分からなくもない。

 もし立場が逆なら、俺も尻込みするかもしれなかった。
 だけど俺はほんとに、そんなところはまったく問題にしてないんだよな。

「パーティを組んでクエストをこなせば、すぐにアイセルのレベルも上がるさ。そこに問題はない」

「でもさすがにレベル120とレベル13では……」

「さっきも言っただろ? 俺が見てるのはアイセルの素直で正直なところだって。いい加減観念しろ、俺が求めているのは絶対に信頼できる裏切らない仲間なんだ」

 もう一度、俺は何より大切にしているその部分を強調して言った。
 すると、

「……わかりました。そこまでケースケ様に言っていただけるのでしたら、わたしとしては是非はありません」

 そう言ってアイセルは首から下げていた認識票を、俺の認識票の上に重ねた。

 それの意味するところは1つしかない。
 俺たちはこくんと頷き合うと、声を重ねて宣誓した。

「「冒険の神ミトラに誓約する! この者と共に、未知なる世界を切り(ひら)かんことを!」」