そして戦闘開始から約30分ほどで、

「これで終わりです――! スキル『連撃乱舞』! はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 グッと腰だめに構えたアイセルが、トリケラホーンに猛烈な連続技を仕掛けていく。

「GAOOOOO!!」
 トリケラホーンが嫌がるように身体をよじらせても、

()がしません――!」

 アイセルは絶妙の位置にピタッと食いついたままで、攻撃の手を緩めはしない。

 実はアイセルは、ここまで何も考えずに攻撃をしてきたわけではなかった。

 俺も途中からその意図に気が付いたんだけど、アイセルはトリケラホーンの左肩のあたり、同じ場所を寸分たがわず何度も攻撃し続けていたのだ。

 一撃一撃は小さな傷しか与えられなくても、それを同じ場所に数十回と繰り返せばば、どんなに硬い鎧のような皮膚であっても積み重なって大きな傷になっていくのだ。

 そして今、猛烈な連続技を繰り出すスキル『連撃乱舞』をその狙い続けた1点に全集中し、ついにその強靭な外皮を切り裂いたのだ――!

 そして、

「そこです! スキル『会心の一撃』!!」

 スキルと共に放たれた強烈な突きが――アイセルの持つ最大級の威力を誇る必殺の一撃が、傷口からそのままトリケラホーンの身体の内部へと侵入する。

 さらにはその心の臓まで一気に到達して――、

「GURYYYYYYYY――――――!!!!」

 断末魔の悲鳴をあげながら、生命の源を失ったトリケラホーンの巨体が轟音を立てて床に崩れ落ちた。

 アイセルは巻きこまれて下敷きにならないように、瞬時に魔法剣を引き抜いて大きくジャンプして退避すると、剣を構えたままで油断なく状況を観察する。

 トリケラホーンが完全に息絶えたことと、周囲にもう他の魔獣がいないことを確認してから、

「ふぅ……」

 最低限の警戒だけは残しながら、アイセルは少しだけホッと安心したように息を吐いた。

 倒したと思ったら死んだふりをされていて、油断した所で手痛い反撃を受けた――といった話は枚挙にいとまがない。

 他の魔獣がいるかもしれないし、倒したと思っても決して油断をしないのが一流の冒険者なのだった。

 そういや今月の冒険者ギルドの標語も「ギルドに帰るまでがクエストです。油断一瞬、怪我一生」だったっけか。

 当たり前のことなんだけど、これがまた分かっていてもけっこう難しいもので。

 標語として掲げられるくらい、誰しも一仕事を終えるとついついホッと安心して油断してしまうものなんだよな。

 学んだことを忠実に実行し、決して手抜きをしないアイセルの生真面目な性格は、そういう意味でも冒険者向きだった。

 というわけで無事に討伐クエストを完了したので、俺は物陰から出てアイセルに近づいていった。

「よくやったなアイセル。お疲れさん。ほんと凄かったよ」

 難敵であるA級魔獣トリケラホーンを1人で討伐してみせたアイセルに、俺は掛け値なしの称賛を送った。

「えへへ、同じ場所を狙う作戦がたまたま上手くはまっただけですから」

 アイセルははにかんで謙遜しながらも、だけどそこには冒険者としてのわずかな自信のようなものも感じられて。

 うん、良い心の持ちようだ。

 慢心や自信過剰は命取りだ。
 世の中、調子のいい奴ほど基本をおろそかにして痛い目を見る。

 だけど自分の積み重ねた技能に自信を持たなくては、できるものもできなくなるのだ。

 そんな心のバランスが、アイセルはしっかりと取れていた。

 慎重かつ大胆に。
 相反する信念の両立が、一流冒険者に必須の心構えなのだ。

 なによりトリケラホーンはアイセルからすれば完全な格上、単体Aランクの上級の魔獣なのだ。

「その作戦にしてもよく考えたと思うぞ。そもそも論として、全く同じところを寸分たがわずピンポイントで狙い続けるなんて、言うのは簡単でもやるのは難しいだろうし。文句なしの100点満点だよ」

「ケースケ様にそこまで言ってもらえるなんて、えへへ、頑張ったかいがありましたね」

 自分で攻略法を考え、それを実行して格上の魔獣ですら倒してみせる。
 そして倒した後も慢心しない。

 アイセルはもうどこに出しても恥ずかしくない、一人前の冒険者に他ならなかった――。