降りて行った先は長いトンネルになっていて、中央に太い水路があり、その両脇に細い通用路が備え付けられている。
「暗いしダンジョンみたいだな……やだなぁもう……」
バフ以外のスキルを持たないバッファーにとって、狭くて暗い場所は最も苦手なフィールドの1つだ。
『暗視』や『気配察知』のスキルを持っていて、普段と変わらず行動できるアイセルが心底羨ましいよ……。
そんな暗い地下水路トンネルをランタンで照らしながら慎重に進んでいくと、アイセルがふと立ち止まって手を耳に当て、耳を澄ますような仕草を見せた。
「……右手奥から猫の鳴き声が聞こえます」
「お、もう見つけたか。さすがアイセルだな」
アイセルの道案内に従って水路を進んでいくと、
「みゃ~……」
少し開けたスペースがあって、そこに1匹の猫が怯えたように縮こまっていたのだ。
「光沢のある青い毛並みに美しい緑の目、そして金の刺繍が入った赤い首輪。特徴も一致してる。うん、あの猫だな、間違いない」
すぐに俺は持ってきていた猫ちゃんお気に入りという移動用バッグを開いた。
同時にアイセルがマタタビを取り出す。
「にゃあ? にゃ、にゃにゃ? にゃー、にゃっ? うにゃー」
そしてアイセルがにゃーにゃ―言いながら(すごく可愛くてほっこりした)マタタビを使って見事におびき寄せて、無事に猫を回収することに成功したのだった。
「よし、対象を確保と」
こうしてミッションはつつがなく完了して、俺たちは来た道を戻り始めたんだけど――、
「ケースケ様、猫のバッグを持っていてください」
突然アイセルが立ち止まると、かなり真剣な口調で俺に言ってきたのだ。
「もちろん構わないけど、どうしたんだアイセル、疲れたのか?」
アイセルから猫バッグを受け取りながら俺が答えると、
「注意してください。水路になにか大きいのがいます」
アイセルはそう言って魔法剣をスラリと抜いて構えた。
「水路に?」
アイセルに言われて目を凝らして見てみたものの、ランタンの灯りの届く範囲しか見えず気配を感じたりもできない俺では、地下水路の水の中まではとても確認することはできなくて。
なので少しだけ上半身を水路の上に突き出して、水の中を覗きこもうとして――、
「――っ! いけません! ケースケ様、顔を引っ込めてください! 早く!」
アイセルの鋭い声が通路に響いた瞬間だった。
ザバァァ――――ッン!!
目の前を流れていた水が激しい音をたてて盛り上がるとともに、巨大な何かが豪快に飛び出してきたのだ――!
それはキバのたくさん生えた巨大な顎だった。
「ぎえぇぇぇっっ!?」
猫バッグを抱きしめながら悲鳴を上げて、細い通路を慌てて後ろに下がろうとした俺の首根っこを、アイセルが掴んでポイっと後ろにほうり投げた。
そして俺をかばうようにものすごい速度でアイセルが前に出る。
「ケースケ様には指一本触れさせません――!」
ガキン――!
甲高い金属音とともに、アイセルの魔法剣が巨大な顎をはね返す!
「悪い、助かった! っていうかマジ死ぬかと思った」
「いえ、これが前衛の役目ですから」
奇襲攻撃が不発に終わって再び水の中に戻っていくその巨体は、
「あの巨大な身体と大きな口、短い手足。間違いない、サルコスクスだ」
水生最強生物とも言われる巨大ワニ、水辺や水中ではAランクに該当する魔獣サルコスクスだったのだ――!
体長7,8メートルはあろう巨大ワニ、サルコスクスは再び水の中に隠れ消えていた。
この暗がりでは、どこから襲われるかわかったものじゃない。
「ケースケ様、水路脇の狭い通用路で戦うの不利です。さっき猫がいたスペースまで、いったん戻りましょう」
「オッケー、異論はない」
俺たちは猫がいた少し開けたスペースへと、戦略的撤退をすることにした。
「暗いしダンジョンみたいだな……やだなぁもう……」
バフ以外のスキルを持たないバッファーにとって、狭くて暗い場所は最も苦手なフィールドの1つだ。
『暗視』や『気配察知』のスキルを持っていて、普段と変わらず行動できるアイセルが心底羨ましいよ……。
そんな暗い地下水路トンネルをランタンで照らしながら慎重に進んでいくと、アイセルがふと立ち止まって手を耳に当て、耳を澄ますような仕草を見せた。
「……右手奥から猫の鳴き声が聞こえます」
「お、もう見つけたか。さすがアイセルだな」
アイセルの道案内に従って水路を進んでいくと、
「みゃ~……」
少し開けたスペースがあって、そこに1匹の猫が怯えたように縮こまっていたのだ。
「光沢のある青い毛並みに美しい緑の目、そして金の刺繍が入った赤い首輪。特徴も一致してる。うん、あの猫だな、間違いない」
すぐに俺は持ってきていた猫ちゃんお気に入りという移動用バッグを開いた。
同時にアイセルがマタタビを取り出す。
「にゃあ? にゃ、にゃにゃ? にゃー、にゃっ? うにゃー」
そしてアイセルがにゃーにゃ―言いながら(すごく可愛くてほっこりした)マタタビを使って見事におびき寄せて、無事に猫を回収することに成功したのだった。
「よし、対象を確保と」
こうしてミッションはつつがなく完了して、俺たちは来た道を戻り始めたんだけど――、
「ケースケ様、猫のバッグを持っていてください」
突然アイセルが立ち止まると、かなり真剣な口調で俺に言ってきたのだ。
「もちろん構わないけど、どうしたんだアイセル、疲れたのか?」
アイセルから猫バッグを受け取りながら俺が答えると、
「注意してください。水路になにか大きいのがいます」
アイセルはそう言って魔法剣をスラリと抜いて構えた。
「水路に?」
アイセルに言われて目を凝らして見てみたものの、ランタンの灯りの届く範囲しか見えず気配を感じたりもできない俺では、地下水路の水の中まではとても確認することはできなくて。
なので少しだけ上半身を水路の上に突き出して、水の中を覗きこもうとして――、
「――っ! いけません! ケースケ様、顔を引っ込めてください! 早く!」
アイセルの鋭い声が通路に響いた瞬間だった。
ザバァァ――――ッン!!
目の前を流れていた水が激しい音をたてて盛り上がるとともに、巨大な何かが豪快に飛び出してきたのだ――!
それはキバのたくさん生えた巨大な顎だった。
「ぎえぇぇぇっっ!?」
猫バッグを抱きしめながら悲鳴を上げて、細い通路を慌てて後ろに下がろうとした俺の首根っこを、アイセルが掴んでポイっと後ろにほうり投げた。
そして俺をかばうようにものすごい速度でアイセルが前に出る。
「ケースケ様には指一本触れさせません――!」
ガキン――!
甲高い金属音とともに、アイセルの魔法剣が巨大な顎をはね返す!
「悪い、助かった! っていうかマジ死ぬかと思った」
「いえ、これが前衛の役目ですから」
奇襲攻撃が不発に終わって再び水の中に戻っていくその巨体は、
「あの巨大な身体と大きな口、短い手足。間違いない、サルコスクスだ」
水生最強生物とも言われる巨大ワニ、水辺や水中ではAランクに該当する魔獣サルコスクスだったのだ――!
体長7,8メートルはあろう巨大ワニ、サルコスクスは再び水の中に隠れ消えていた。
この暗がりでは、どこから襲われるかわかったものじゃない。
「ケースケ様、水路脇の狭い通用路で戦うの不利です。さっき猫がいたスペースまで、いったん戻りましょう」
「オッケー、異論はない」
俺たちは猫がいた少し開けたスペースへと、戦略的撤退をすることにした。