ここまで観察してみたところ、うん、どうやら敵意はなさそうだな。
むしろ純朴そうな顔立ちをしている。
――だけどアンジュも昔は優しくて素直でピュアで心が美しくて生娘で乙女だったから、俺はこの子の外見に騙されたりはしなかった。
3年もヒキコモっていてたまたま偶然外に出た俺を、元勇者パーティの一員だと一目で見抜いて声をかけてくる。
状況やタイミングを考えれば怪しすぎる。
白か黒かで言えば限りなく黒だろう。
ならば警戒しても、しすぎることはない。
おそらく俺はかなり詳細に素性調査をされているはずだ。
ここに泊まっていて、資金が足りなくなっていることまで調べ上げられていて。
そしてそろそろ金欠で出てくるだろうと、俺を待ち伏せていたに違いない。
そんな用意周到な相手を前に油断はできなかった。
なにより俺はもう誰であろうと絶対に信じないと決めたのだから。
そうだ。
こういう人畜無害に見える女の子に限って裏切るんだ。
ほいほいとイケメン勇者に股を開くんだ。
一突きされただけで甘い嬌声をあげるんだ。
俺はそのことを身をもって知っていたから――。
「ごめん、どこかで会ったかな? 覚えがないんだ」
俺は警戒感と敵意を露骨に見せながら、逆にエルフの女の子に問いかけた。
すると、
「3年前『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐に行く際にここに勇者パーティが宿泊した時に、顔を見たことがあって、それで覚えてたんです。今日たまたま通りかかったら歩いているのが見えて。またここに泊まられてたんですね!」
「たまたまだと? それはまた、すごいたまたまもあるもんだな?」
既にこの時点で俺の警戒ゲージはマックスだった。
よりにもよって、たまたまだと?
俺がこの3年で外に出たたった1度の、たった数分にたまたま出会うなんて、言い訳が下手くそすぎるにも限度があるんだぜ?
「はい、すごくラッキーでした! 『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』が討伐されてこの辺りはすごく平和になって。特にわたしたちの住むエルフの森は『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』の住処の近くだったので、平和な今があるのはケースケ=ホンダム様たちのおかげですから!」
「そ、そうか……うん、そりゃよかったな」
「はい! こうやって憧れの方にお会いできて、今日はとてもいいことありそうです。えへへ……」
「え、あ、うん。そう、それはどうも……」
な、なんだ……?
これだけ露骨に敵意を見せつけてるってのに、えらくフレンドリーなままだな?
目とかすごくキラキラさせてるし。
迷子になってた子供がやっと親に会えた時だって、ここまで目をキラキラさせないだろ?
もしかして俺の敵意をまったく感じとってないのか?
ちょっと鈍いタイプ?
「でも栄光ある討伐パーティの中にケースケ=ホンダム様の名前がなかったので、もしかして途中で死んでしまったのかなって、ずっと気になってたんです」
「まぁいろいろあってな……」
まさか結婚の約束をした幼馴染を勇者に寝取られて中出しされた上に、パーティのお荷物扱いされて、人生に絶望してヒキコモっていた――。
などとは恥ずかしすぎて言うわけにもいかず。
俺が気まずさから、視線を逸らしながら言葉を濁すと、
「あ、えっと、ごめんなさい! 余計なことを聞いてしまいました」
エルフの少女はガバッと頭を下げたのだ。
それはもう一生懸命に頭を下げていた。
頭のてっぺんのつむじが見えていた。
向かって時計回りだった。
いやつむじの向きは置いといてだ。
え……?
この全く邪気のない話ぶりと態度。
もしかして、ほんとにただの偶然だったってこと?
偶然たまたま天文学的な確率で、俺が外に出たわずか数分の間に出会ったってこと?
つまりどこかの国か機関のエージェントが、生活苦の俺を上手いこと利用しようと思って接触してきたんじゃないってこと?
あれ、ぜんぶ俺の勘違い?
完全な自意識過剰ってやつ?
なにそれ恥ずかしい!
穴があったら入りたいんだけど!
むしろ純朴そうな顔立ちをしている。
――だけどアンジュも昔は優しくて素直でピュアで心が美しくて生娘で乙女だったから、俺はこの子の外見に騙されたりはしなかった。
3年もヒキコモっていてたまたま偶然外に出た俺を、元勇者パーティの一員だと一目で見抜いて声をかけてくる。
状況やタイミングを考えれば怪しすぎる。
白か黒かで言えば限りなく黒だろう。
ならば警戒しても、しすぎることはない。
おそらく俺はかなり詳細に素性調査をされているはずだ。
ここに泊まっていて、資金が足りなくなっていることまで調べ上げられていて。
そしてそろそろ金欠で出てくるだろうと、俺を待ち伏せていたに違いない。
そんな用意周到な相手を前に油断はできなかった。
なにより俺はもう誰であろうと絶対に信じないと決めたのだから。
そうだ。
こういう人畜無害に見える女の子に限って裏切るんだ。
ほいほいとイケメン勇者に股を開くんだ。
一突きされただけで甘い嬌声をあげるんだ。
俺はそのことを身をもって知っていたから――。
「ごめん、どこかで会ったかな? 覚えがないんだ」
俺は警戒感と敵意を露骨に見せながら、逆にエルフの女の子に問いかけた。
すると、
「3年前『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』を討伐に行く際にここに勇者パーティが宿泊した時に、顔を見たことがあって、それで覚えてたんです。今日たまたま通りかかったら歩いているのが見えて。またここに泊まられてたんですね!」
「たまたまだと? それはまた、すごいたまたまもあるもんだな?」
既にこの時点で俺の警戒ゲージはマックスだった。
よりにもよって、たまたまだと?
俺がこの3年で外に出たたった1度の、たった数分にたまたま出会うなんて、言い訳が下手くそすぎるにも限度があるんだぜ?
「はい、すごくラッキーでした! 『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』が討伐されてこの辺りはすごく平和になって。特にわたしたちの住むエルフの森は『暴虐の火炎龍フレイムドラゴン』の住処の近くだったので、平和な今があるのはケースケ=ホンダム様たちのおかげですから!」
「そ、そうか……うん、そりゃよかったな」
「はい! こうやって憧れの方にお会いできて、今日はとてもいいことありそうです。えへへ……」
「え、あ、うん。そう、それはどうも……」
な、なんだ……?
これだけ露骨に敵意を見せつけてるってのに、えらくフレンドリーなままだな?
目とかすごくキラキラさせてるし。
迷子になってた子供がやっと親に会えた時だって、ここまで目をキラキラさせないだろ?
もしかして俺の敵意をまったく感じとってないのか?
ちょっと鈍いタイプ?
「でも栄光ある討伐パーティの中にケースケ=ホンダム様の名前がなかったので、もしかして途中で死んでしまったのかなって、ずっと気になってたんです」
「まぁいろいろあってな……」
まさか結婚の約束をした幼馴染を勇者に寝取られて中出しされた上に、パーティのお荷物扱いされて、人生に絶望してヒキコモっていた――。
などとは恥ずかしすぎて言うわけにもいかず。
俺が気まずさから、視線を逸らしながら言葉を濁すと、
「あ、えっと、ごめんなさい! 余計なことを聞いてしまいました」
エルフの少女はガバッと頭を下げたのだ。
それはもう一生懸命に頭を下げていた。
頭のてっぺんのつむじが見えていた。
向かって時計回りだった。
いやつむじの向きは置いといてだ。
え……?
この全く邪気のない話ぶりと態度。
もしかして、ほんとにただの偶然だったってこと?
偶然たまたま天文学的な確率で、俺が外に出たわずか数分の間に出会ったってこと?
つまりどこかの国か機関のエージェントが、生活苦の俺を上手いこと利用しようと思って接触してきたんじゃないってこと?
あれ、ぜんぶ俺の勘違い?
完全な自意識過剰ってやつ?
なにそれ恥ずかしい!
穴があったら入りたいんだけど!