「婿殿……ですか?」
 いぶかしげに振り向いた俺に、

「うむ、我が娘と結婚するのだから、これからは婿殿と呼ばせてもらいたい」
 シャーリーのお父さんが満面の笑みで頷いた。

「それはまぁ構いませんが……」

「それと、ワシのことは『お義父(とう)さん』と呼びなさい」

「えーと……お、お義父さん」
「うむ、実にいい響きだな」

 初めて会った時は『お前にお父さんなどと呼ばれる筋合いはない!』とか怒鳴られたのに、えらい変わりようだな……。

「それでお義父さん、いったい何の御用でしょうか?」

「話というのは他でもない。孫の顔は、いつぐらいに見られるのかね?」
「ええっと……?」

「ちょ、ちょっとお父さん。急に何を言ってるのよ。それにこんなところで話すようなことでもないでしょ」

「何を言うか。娘が結婚するからには孫の顔が見たくなるのは、親として当然だろう。それで婿殿、いつぐらいを予定しておるのかのぅ」

「それがその、実は個人的な問題を抱えておりまして、急にというわけにはいかず――」

「ならば問題とやらの解決の力になろう。こう見えてワシは、冒険者ギルド本部のギルドマスターの身。様々な分野に知り合いやツテがいくらでもあるからの。さぁさぁ、そういうわけだから、別室で親子の話としゃれこもうではないか」

 そう言うと、シャーリーのお父さん――お義父さんは俺の肩をガシッと掴んで、半ば引きずるように歩き始めた。

「え、いやちょっと、俺はこの後予定が――」
「なに遠慮はいらぬ」

「今日は忙しいって、最初に言っていませんでしたか?」
「あれは嘘だ」
「ですよね!」

「ふふっ、お父さんにすっかり気に入られちゃったみたいね」
「シャーリーも他人事のように言わないで助けてくれ!」

「お父さんはこうなると言っても聞かないのよねー。でもほら、今までとは違って向けられているのは好意なんだし、今日のところはとりあえず男同士で親睦を深めてきたら?」

 自分の父親が言っても聞かないことはよく知っているからか、シャーリーはもう諦めモードで投げやりな言葉を放ってくる。

 俺はシャーリーを諦め、アイセルへとヘルプの視線を向けた。

「……親子の絆は大事ですよね?」
「アイセル、露骨に目を逸らしながら言うんじゃない!」

「ねーねー、シャーリー、アイセルさん。私、ケーキ食べ行きたいー」
「この状況でケーキの話とか、お前はほんと我が道を行ってるな!」

「我もケーキとやらを食べてみたいのぅ。案内するがよい」
「じゃあ決まりね」

「おぉい!? ミトラ神までなに言ってんだ! あ、ちょっと! 俺を置いていかないでくれ!」
「さぁさぁ婿殿、積もる話でもしようではないか」

 パワーファイターのお義父さんの怪力の前に、バッファーの俺になす(すべ)などあるはずもなく――。

 その後。
 俺は孤立無援のまま、お義父さんとこれからの人生設計について、長々と突っ込んだ話をさせられ。

 やっとこさ解放されてみんなと合流できたのは、夜も遅くになってからだった。

 まぁ?
 すっかり親身になってくれたお義父さんからは、秘伝の丸薬を貰ったり、腕のいい医者を紹介してもらえたりはしたので、成果はとても大きかったんだけども。

 ともあれ、こうして最後のクエストも無事に認定され。
 シャーリーのお見合いを阻止するというミッションは、本日をもって完了したのだった。



 それから一カ月ほどがたち。

「じゃあ行くか」

 ミトラ神を加えて5人になったパーティ『アルケイン』は新しいクエストへと向かった。

 なんと俺たちの活躍を聞きつけて、大陸一の超大国シュヴァインシュタイガー帝国にある帝国冒険者ギルド本部から直々に、高難度クエストの協力要請が来たのだ。

「私、シュヴァインシュタイガー帝国に行くのは初めてです」
「俺は1度だけ行ったことがあるな。って言っても隅っこの辺境地域だけど」
「アタシは帝都に行ったことがあるわよ」
「私も私も! もうすっごく大きい建物がいっぱい立ってるんだから。超ウケるよ!」
「うむ、楽しみじゃの」

 さて、次なる冒険の舞台は、覇権国家シュヴァインシュタイガー帝国。
 ドラゴンやらなんやらの伝説が無数に残る超大国だ。

 俺たちの冒険は、まだまだ続く――!


・S級【バッファー】(←不遇職)の俺、結婚を誓い合った【幼馴染】を【勇者】に寝取られた上パーティ追放されてヒキコモリに→金が尽きたので駆け出しの美少女エルフ魔法戦士(←優遇職)を育成して養ってもらいます

(完)

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【後書き】

 35万字を越える大長編を、最後までお読みいただきありがとうございました。

 冒険の神ミトラを仲間にしたSランクパーティ『アルケイン』。
 舞台を帝国へと移した後も快進撃が続いていくことでしょう。

 それはさておいて、内容的な話を少しだけ。
 本来『冒険の神ミトラ』は『物語全体』のラスボスでした。

 シャーリーのお父さんが出したもともとの最終クエストは、「鳳凰フェニックスの『燃える羽』を取りに行くこと」でした。

 そのクエストの最中に、炎の魔神とも呼ばれる炎の最高位精霊イフリートと遭遇してしまい戦いになる予定でしたが、ひとまず物語を完結させるために最終ボス戦のミトラ神と組み替えました。

 書籍化ができれば、色々と続けていって、最後の最後でミトラで終わるつもりだったんです。
 しかしながら書籍化がかなわなかったため、いったんここで終了となります。

 ちなみにイフリート戦のプロットは簡単にはこんな感じ(↓)です。

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イフリートの使う強力な火炎精霊術にケースケのバフもねじ伏せられ、パーティ丸焼きの大ピンチに

しかし水の最高位精霊ウンディーネからもらった『精霊結晶』を200万回連続連鎖発動させることで、炎の精霊力に水の精霊力で強烈に干渉し、瞬間的にイフリートの力を抑え込む。

そこにシャーリーの極大殲滅魔法、サクラの精霊攻撃、アイセルの《紫電一閃(しでんいっせん)》を完全同時に叩き込む三位一体の必殺攻撃でイフリートを倒す。

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 元々ウンディーネの『精霊結晶』はこのイフリート戦のために用意したアイテムでした。
 しかしながら話を最終決戦のミトラとの戦いへと変更したので、活躍の機会がなくなってしまいました、残念。

 というわけで温かい応援ありがとうございました。