「あの、突然、何を……?」

 ミトラ神の言葉に、困惑する俺。
 視線を向けると、シャーリーもアイセルもサクラも、俺と同じように困惑の表情を浮かべていた。

「いやなに。実を言うと、我は冒険というものをしたことがないのだ。我は愛しき我が子らに、力を分け与えておるだけじゃからな」

「あ、言われてみれば、たしかにそうですね」
 アイセルが納得を表すように、ポンと軽く手のひらを合わせた。

「だというのに、今や我は冒険の神などと呼ばれておる。これはいかがなものだろうかと思わぬか?」

「あはは! たしかに冒険の神様が冒険したことないなんて、変だよね! ウケる!」
 そして神様相手だろうがなんだろうが、ウケちゃうサクラ。
 お前は本当にウケるのが好きだな。

「じゃろう?」
 そして特に気分を害してないミトラ神は、本当に懐が深いよなぁ。

「それで俺たちと一緒に冒険って話なわけか」

「うむ。各々の力を使いこなし、ともに力を合わせることができる汝らは、我が理想とするパーティの形そのものであるからの。我が行動を共にするならば、汝らのパーティ以外あるまいて」

「理由は分かったけど、急にそんなことを言われてもな。俺たちに神様の面倒なんて見れるだろうか」

 なにせ神様だ。
 一体全体、なにをどうしたらいいんだよ?

「安心せよ、汝らに迷惑はかけぬ。あくまで居候(いそいうろう)をさせてもらうだけだと弁えてもおる。どうか我をパーティの一員に加えてはくれぬか?」

 ミトラ神が俺たちに向かって深々と頭を下げた。
 はたして冒険の神であるミトラ神にこうまで言われて、断れる冒険者などいるだろうか?

「俺はこの話を受けようと思う。みんなはどうだ?」

「わたしは大賛成です。神様と一緒に冒険できるなんてロマンいっぱいですから」
「アタシも異論はないかな。さっきはアタシのことを助けてくれたんだし」
「神様と冒険とかマジウケる~~」

 俺はみんなの意見を確認してから、ミトラ神に言った。

「分かりました。一緒にパーティを組みましょう」
「おおっ! 話が分かるのぅ!」

 デデン!
 パーティ『アルケイン』に冒険の神ミトラが加わった!

 真面目な話、超すごくね!?
 これからは神様と一緒に冒険するんだぞ?
 こんなことは、長い冒険者の歴史でも初めて――どころか後にも先にも2度とないんじゃないか?

 いち早くアイセルの才能を見抜いて『大勇者』に仕立てあげようとした俺だが、ここまで大きく話が膨らむとは、さすがに想像していなかったぞ。

 さてと、仲間になってもらったのはいいが、どんな感じで話しかけたものか――などと俺が少し考えを巡らせていると、

「神様神様、私はサクラ。バーサーカーだよ」

 サクラがあっけらかんとした口調で自己紹介を始めた。

「サクラじゃな。我のことはミトラと呼ぶがよい」
「じゃあミトラ。これからよろしくね!」
「うむ」
「で、あっちの可愛い子がアイセルさん。魔法戦士で、うちのパーティのエースなんだよ。超強いんだから」

 すげーなおい。
 普通に話しかけてるんだが。
 相手、神様だぞ?
 お前、本っっっっっ当に怖いものなしだな!?

 我が道を行くサクラのおかげで、速やかに自己紹介が終わり。

 こうして一件落着かと思われたのだが。
 帰ろうとしたところで、

「ところで婿殿」

 俺は突然、シャーリーのお父さんからガシッと肩を掴まれて、呼び止められた。