「いいや、分からんな。断固として分からん。よって物証は何も無し! つまりクエストの攻略を示すものは、何一つとして存在しないというわけだ! わはははははっ!!」

 しかしシャーリーのお父さんは、シャーリーに向き直ると真っ向から反論をしてきた。

「なに言ってるのよ。攻略の証拠に、ケースケが詳細な報告書を作成してるじゃない」
「報告書なぞ、その気になればいくらでも捏造はできるからのぅ」

「ケースケは捏造なんてしないわ」
「あいにくとケースケ君と付き合いの浅いワシには、判断できぬことじゃな」
「くっ……!」

 口達者で頭も回ってとても頼りになるシャーリーだが、珍しく舌戦でいいようにやり込められてしまう。

 今回のようにろくに物証がなく、改めての検証も難しい状況では、いかにシャーリーといえども論破するのは難しいということか。

「いやはや、非っっっ常に残念ではあるのだがなぁ。しかし、こればっかりは可愛い娘の頼みだからといって、認めてやることはできんのでなぁ。なにせワシは公明正大が求められる、冒険者ギルド本部のギルドマスターなのだからなぁ」

「さっきから難癖ばっかり付けて、結局クエストの攻略を認めたくないだけでしょ! いい加減に怒るわよ!」

「何度も言うが、証明できないものを認めるわけにはいかんのでな。娘だからといって特別に甘い査定をしたとあっては、他の冒険者たちに示しがつかぬだろう? いやー、残念無念だなぁ。なぁ、ケースケ君。ケースケ君もそう思うだろう?」

 シャーリーのお父さんは、最後はことさらに俺に向かってその言葉を発した。

 呼び出されて追加の説明を求められた時点で、こう来ることはある程度予測できていた。
 冒険の神ミトラの存在を証明できないこと――それが俺の作った報告書の最大のウィークポイントだったからだ。

 なにせシャーリーのお父さんは、俺とシャーリーをくっ付けたくない。
 となれば必ず今回の報告書の一番の弱点を徹底して突いて、『クエスト不成立』を主張してくるだろうことは、俺でなくても予想ができることだった。

 それが分かっていたからこそ、俺は物証がなくても問題がないように、本当に細かなところまでしっかりと報告書を作成していたのだ。
 シャーリーが神殿で記録してくれていた『古代神性文字に酷似した、だけど見たことのない文字』なんかも、ちゃんと書き写して添えている。

 しかし『神様と戦った』ことを信じてもらうには、それだけでは到底足りなかったか――。

 どうする?
 いったん戻って出直すか?

 いいやダメだ。
 出直したとしても、最初から認める気がない相手を翻意(ほんい)させることは、現状かなり難しい――、

【愛しき子らよ。我のせいで、いらぬ苦労しているようだな】

 と、議論が白熱する中で突然そんな声が聞こえ、アイセルがしまうにしまえずに抜きっぱなしにしていた神剣『リヴァイアス』が、神々しく光り輝いた。
 そして光が晴れると、そこにはいつの間にか一人の女の子がいた。

 高貴かつ端正な顔立ち。
 つややかで美しい黒髪を、ストレートで背中に垂らし。

 上が白、下が赤の珍しい衣装――何かの文献で見たことがある東方の島国の「巫女服」と呼ばれる司祭衣装だろうか――を身にまとっている。

 年はシャーリーと同じくらいに見えるから、ハタチくらいかな。

 そしてさっきの、頭の中に直接伝わってくるような不思議な声。
 神剣『リヴァイアス』が光った直後に現れたこと。

 これらを総合して導き出される存在といえば――、

「まさか、君は冒険の神ミトラなのか?」
「うむ」

 俺のおそるおそるの問いかけに、女の子――ミトラ神がおごそかに頷いた。