「戦闘でもなんでも、いい流れが来ている時は、それを逃してはいけないんです。そして流れ掴んだら絶対に離さず、むしろここぞとばかりに流れに乗っていくんです」

「それって――」
 アイセルのその言葉に、俺は思い当たる節があった。

「はい。ケースケ様が昔、教えてくれたことです」
「そういやそんなことも教えたなぁ」
「はい♪」

 アイセルを一流の冒険者として育てるために、俺は技術的なこと以外にも、冒険への心構えや発想の転換といった精神的や心理面でのことなど、いろいろことを教えた。
 その中で、物事には『流れ』が重要だということも語って聞かせたことがあったのだ。

「本当にアイセルは、なんでもしっかりと覚えてくれているなぁ」
「もぅ、ケースケ様ってば。ケースケ様から教わったことを忘れたりなんてしませんよぉ」

 やだなぁもぅ、とアイセルが楽しそうに笑う。
 そんなアイセルを見て、俺も自然と頬が緩くなっていた。

 これだけ強くて有名になった今も、アイセルはしっかりと俺に習ったことを心に留め置いてくれている。
 そのことが俺をさらに幸せな気分にさせてくれていた。

 なにより、今や南部諸国連合のギルド本部にまで名を知られる戦闘のスペシャリストとなったエースアタッカーのアイセルが言うと、これ以上ない説得力があるもんな。

 そしてアイセルが話し終えたと思ったら、再び今度はシャーリーが口を開いた。
 戦闘時を思わせる、一気に畳みかけようとする隙のない連携だ。

「それにほら、アイセルはまだ若いけど、アタシはそろそろ子供が欲しい年齢でしょ? だったらケースケが男を取り戻してくれるのも、早い方がいいかなって思っちゃうのよね」

 しかしここまでの自信に満ち溢れた様子とは打って変わって、シャーリーの口調は妙に神妙かつ真剣だった。

「いやいや、ハタチ過ぎのシャーリーが若くないってことはないだろ? たしかに結婚する人が増え始める年齢ではあるけどさ。でも冒険者は結婚も出産も平均より少し遅めなんだし、気にすることはないんじゃないか?」

 冒険者ギルドがこの前出した報告書で『身体が資本の冒険者は、結婚が他業種と比べてやや遅い』って統計が出ていたことを、俺は思い出す。

 ちなみにそこにはパーティ内での『できちゃった婚』が非常に多いとも書いてあった。
 いつも一緒に行動すると自然と恋愛感情が発生するし、いつも一緒にいるのでそういう行為も自然と発生してしまうとかなんとか、そんな理由が書かれていた。

 それはさておき。

「もぅ、気にするわよ」
「気にしなくても大丈夫だった。だいたいシャーリーが若くなかったら、シャーリーのさらに5歳年上の俺なんてどうなるんだ。もはやお爺ちゃんだぞ?」

 考えるだけで怖いんだが。
 うん、考えないようにしよう。

「そうは言ってもね? お見合いの件でお父さんに呼び出されて地元に帰った時に、友だちに会ったんだけど。みんな結婚して子供が生まれてて、置いて行かれた感をひしひしと味わっちゃったのよね」

 温泉でリラックスして口が軽くなってしまったのか。
 まるで人生相談をするかのように、ずっと抱えていたであろう不安な心の内を吐露するシャーリー。
 そんなシャーリーを、俺は無性に元気づけてあげたくなってしまった。

 まぁなんだ。
 好意を寄せてくれる女の子が不安そうにしていたら、元気づけてあげたいと思うのは、男なら当たり前だろ?

「大丈夫だ、シャーリーは若い。なあ、アイセルだってそう思うよな?」
「はい、シャーリーさんは全然十分若いですし、すごく魅力的です」

「10代でピチピチ乙女のアイセルに言われると、むしろ気を使われているみたいで、ヘコんじゃうんだけど……」
「えええっ!?」

 げげっ、しまった。
 アイセルからの援護射撃を貰おうと思ったんだが、シャーリーよりも5歳以上若いアイセルに聞いたのは、この話に限っては完全に藪蛇(やぶへび)だった。
 余計なことをいって、さらにガックリさせてしまったぞ。