「あぁ~、身体の芯から生き返る~~」

 俺は疲れきった身体を温泉の中に投げ出しながら、星が輝く夜空を見上げながら呟いた。
 俺たちが泊まっていた麓の村には、天然の温泉があった。

 温泉は、周囲から見えないようにぐるりと岩で囲まれた露天風呂になっていて、しかも今は俺一人しかいない。

 なので俺は、それはもうだらしなく身体を投げ出していた。

 歩き続けて筋肉痛になった身体に、温泉の効能が染み込んでくる。
 疲労いっぱいの身体は、一度投げ出してしまうと、もう動くのを拒否してくる。

「たんに身体が気持いいだけじゃなくて、この圧倒的な解放感。疲れた身体と心が同時にリフレッシュするよ。やっぱり露天風呂は最高だなぁ」

 しみじみと呟いた言葉は、満天の夜空に吸い込まれるように消えていく。
 気持ちいいなぁ、はふぅ……。

 俺がしばらく1人で温泉を堪能していると、

「さっきからケイスケ、めっちゃじじくさいんだけど」

 サクラがやってきて、俺のすぐ近くでドボンと温泉に飛び込んだ。
 俺の顔に、跳ねたお湯がビシャビシャっと派手にかかる。

「ぶっ、ゲホ、ごほ……おいこらサクラ、なんちゅう入り方をしてるんだ」
「温泉に飛び込むのって気持ちいよね! もはや温泉は、飛び込むためにあるんじゃない?」
「……人のいないところでやろうな」

 サクラの言葉に、実は俺もサクラぐらいの年齢ぐらいの頃に、温泉にドボンしては親に怒られていたことを思い出してしまい、なので俺は弱めの注意にとどめ置くことにした。

 ま、子供ってのはそんなもんだよな。
 なんでもかんでも叱ってしまうのは、教育としては良くないと思うんだ。

「あはは、ケイスケじゃなきゃやらないし。ケイスケは特別だから」
「へいへい、特別待遇してもらってありがとさん。あとじじくさいは止めてくれな。地味に心に来るから」

「はーい!」
「お前、返事だけはいつもいいよな」

「コミュニケーションは大事だからね!」
「ナチュラルに意識も高いよな、サクラは」
「ふふん、当然でしょ!」

 サクラが自信満々の笑顔でサムズアップした。

 ま、懐いてくれているならいいさ。
 年齢差があるパーティ運営は、年上が年下に合わせるのが基本だからな。
 俺は年長者として、今後もサクラを微笑ましく見守っていくことにした。

 それに冒険者としては、俺の想像以上に成長しているしな。
 いまやサクラは、アイセルやシャーリーと比べてもなんら遜色がない、超一流の冒険者だった。
 まぁそれはそれとして。

「それと、ここは男湯だぞ。女湯は向こうだから、さっさと向こうに行ってこい」
「だってアイセルやシャーリーさんが、こっちでみんな一緒に入ろうって言うんだもん」

「アイセルとシャーリーが?」
「うん」
 サクラが頷いたのとタイミングを合わせたかのように、

「えへへ、来ちゃいました」
「やっほー、ケースケ。一緒に温泉、入りましょう」

 アイセルとシャーリーが、男湯へとやってきた。

「ええっと、アイセル、シャーリー? こっちは男湯だぞ?」
 俺は二人の裸を見ないようにスッと視線を逸らした。

「アタシたち以外に誰もいないんだから、実質貸し切りみたいなもんでしょ? だったら一緒に入った方が、パーティの親睦も深められるかなって思わない? 思うよね。うん、OK」

 勝手にOKを出しながら、シャーリーは俺の右隣にするりと入って来た。

 さらに俺を逃がさないとばかりに、俺の右腕を抱きしめるように絡めとってくる。

「お、おい」
「なぁに?」
 スタイル抜群なシャーリーの、ふにょふにょ柔らかでむにゅむにゅ豊かな感触が、俺の右腕や右半身に触れ、俺はなんともドキッとさせられてしまった。

 そしてアイセルも当然のようにそれに続いて、

「えへへ、それではケースケ様のお隣に、お邪魔しますね」

 俺の左側にするりと入ってくると、同じように俺の左腕をギュッと抱きかかえてきた。
 スレンダーだが女性としての膨らみもしっかりとある、もちもちですべすべなアイセルの感触に、俺はこれまたドキリとさせられてしまう。

 つまり今の状況がどうなっているかというと、温泉露天風呂で美少女2人にサンドイッチをされる――見る人が見れば、なんとも(うらや)まけしからん状況だった。

 まあ、ここにはパーティ『アルケイン』の4人しかいないので、他人の視線を気にする必要はないのだが。