「ところで、願いごとが決まったらまたこの遺跡に来たらいいんだろうか?」

 神様に願いごとを叶えてもらうんだから仕方ないとはいえ、ここに来るのって結構大変なんだよな。
 特にバッファーの俺はさ。
 その時はまたサクラに背負ってもらわないといけない。

【否。愛しき我が子らも、再びこの地まで訪ね来るのは骨が折れるであろう。よって願い事が定まるまでは、我はその剣を仮の住まいとさせてもらう】

「ええっと、剣ってこれのことですよね?」
 アイセルが鞘から魔法剣『リヴァイアス』を引き抜いた。

 パーティを組んですぐの頃に、武器屋の店主に特別に融通してもらい、それ以来アイセルの愛剣として活躍を支えてきたのが、魔法剣『リヴァイアス』だ。

 どこぞの古い遺跡から出てきた以外は出自は全く不明で文献にも載っていないが、超がつくほどの業物(わざもの)なのは間違いない。
 そしてパーティ『アルケイン』の剣は、この魔法剣『リヴァイアス』1本しかなかった。

「剣を仮の住まいにするって、つまり封印みたいな感じか? でもさすがの魔法剣『リヴァイアス』でも、神様を封印するなんて芸当は無理なんじゃないか?」

 いくら業物とはいえ、ものには限度というものがある。
 神様の力を抑えきれなくて魔法剣『リヴァイアス』が砕けでもしたら大変だ。

 アイセルモデルと銘打って、実質アイセル公認のコピーモデルのレプリカ剣を大量に売りさばいて大儲けをしている武器屋の店主とか、アイセルが他の剣に乗り換えたら泣いて悲しむぞ?

【それならば問題はない】

「というと?」

【今、魔法剣と呼んだその『リヴァイアス』。それはかつて龍神と呼ばれたリヴァイアサンの角から切り出した、神代(かみよ)の時代の神性を秘めし剣なるゆえ】

「ブフゥッ!?」
 その言葉に、俺は思わず噴き出してしまった。

「ちょっとケイスケ、ブチ汚いし! エンガチョ!」
 サクラが「ひええっ!」って顔をしながら、俺から距離を取った。

「だってお前、龍神の角から切り出した神剣って言ったんだぞ!? つまり神話級の武器ってことじゃないか!」

 これを格安で譲り受けた時ですら『少なく見積もっても2000万ゴールドはするだろ』とかなんとなく思っていたけど、これもうそもそも、お金じゃ買えないレベルの武器だぞ!?

 大陸中の王様や冒険者たちが血眼になって欲しがるような剣だぞ!?
 そりゃ吹いても仕方ないだろ?

 あとエンガチョとか、俺が子供の頃にかろうじてギリ残ってたような死語をよく知ってるな。

「神剣……どれだけ硬い敵と戦っても刃こぼれすらしないので、かなりすごい出自の剣だとは思っていましたけど。まさか神龍の角から切り出した剣だったなんて……」

 驚きに目を大きく見開きながら、裏返したり光に当てたりして魔法剣『リヴァイアス』の刀身を見つめるアイセル。

「龍神の角からできた剣だなんて……なんだかもう凄すぎて言葉が出てこないわ」
 さすがのシャーリーもお手上げといった様子だった。

「神話級ってことは、アタシのガングニルアックスと一緒だね!」
「そういうことになるな」

 つまりはそういうことだった。
 水の精霊ウンディーネがくれたガングニルアックスと、龍神の角から切り出した神剣『リヴァイアス』。
 俺たちパーティ『アルケイン』は、いつの間にか神話級の超絶武器を2つも保有していたことになる。

【しかしながら既に保持する神性がかなり薄れてしまっているようだ。しかし今はそれがちょうどよい。その剣を我が依り代にさせてもらうとしよう。願いごとが決まれば改めて呼ぶがよい】

 そう言い残すと、冒険の神ミトラの身体がひと際強く光って、そのままアイセルの持つ魔法剣『リヴァイアス』へと吸い込まれていった。

 冒険の神ミトラが発光していたためかなり明るかった古代神殿遺跡内が、天井の隙間から光が差し込むだけの元の状態へと戻った。