「それで? どうするのよケイスケ? 神様が何でも叶えてくれる願いごとなんだから、とりあえずなんか言っておかないと損だよねー」

「お前はほんと何でも思ったことをストレートに言うよな……でもどうするかな。みんな他に希望はないか?」

 言いながらアイセル、サクラ、シャーリーを見渡してみたものの、しかし特になにかしらの希望は返ってこなかった。
 みんな揃って欲がないなぁ、なんてことを思っていると、

「じゃあもう、手っ取り早く王様にでもしてもらう?」
 持ち前の能天気さで、この場の主導権を握りつつあるサクラが言った。

「サクラが王様に成りたいなら、俺はそれでも別に構わないぞ」

「はぁ!? 王様になったら冒険できないじゃん! せっかくパパを説得して冒険者になったのに意味なくなるし!」

「だったら王様にしてもらおうとか言うなよな……」

「ケイスケがなればいいじゃん、一応はパーティのリーダーなんだし。みんな文句は言わないと思うよ。ね?」

「わたしは構いせんよ」
「アタシも構わないわよ」

 サクラの言葉にアイセルとシャーリーが揃って頷いた。

「うーん、正直俺も特になりたくはないかなぁ」
「え、そうなの?」
「前のパーティの時に、王様とは何度か謁見したことがあるんだけどさ、王様って結構面倒くさそうなんだよなぁ」

 俺は過去の謁見の記憶を思い出す。

「キンキラキンに着飾って、重そうな王冠を被って、謁見の間で玉座に座って厳かな口調で偉そうなことを言わないといけないものね。確かにケースケには似合わないかも」

 すると、その時に一緒に王様に謁見をしたシャーリーも、俺の意見に同調するように苦笑気味に笑った。

 だよなぁ、はっきり言ってダルいよなぁ、あれ。
 王侯貴族の堅苦しさは、庶民にはしんどすぎるよ。

「それにさ。俺にはアイセルを、勇者を越えた大勇者にするって野望があるからな。現状、かなりいいところまで来てるから、ここで違う道を選ぶ選択肢はないよ」

 王様はそれこそ何代にもわたって存続していて、しかもそれが各国にいる。
 実際は地方領主に過ぎないような、極めて小さな国家も存在する。
 それでも王様は王様だ。

 というか、王様とは名ばかりの小さな王国が寄り合い所帯で集まってできている、俺たちが住むここ南部諸国連合がいい例だった。

 南部諸国連合の構成国はどこも小国で、一国では近隣の中堅国家にすらまともに対抗できないため、同盟を結んで力を結集することで独立を保っている。
 そしてその意思決定は、各国から派遣された代表者によって運営される評議会が行っていた。
 なので各国の王様には、送り込む代表者を誰にするか以外には大きな決定権がないのだ。

 だがしかし。
 神様と戦って認められるような特異な冒険者は、少なくともここ数百年は存在していなかった。

 まさにオンリーワン。
 アイセルの名前はそう遠くないうちに、冒険者の歴史に燦然(さんぜん)と輝く伝説になる。
 俺はそのことを既に確信していた。

 そんな伝説級の大勇者にアイセルはなるんだから、ここで方針転換したら今までの苦労が台無しだった。

「それもこれも、全ての功績をわたしに全部譲ってくれたケースケ様のおかげです」
 この話題になるたびに、神妙な顔で感謝の言葉を継げるアイセルに、

「何度も言うがアイセルを目立たせることが、回り回って俺の、ひいてはパーティ全体のプラスになるから、そこは胸を張ってくれな。おかげで俺の懐もだいぶ潤ったし」

 俺はこれまたいつもと同じように、感謝の笑顔を返したのだった。

 なにせアイセルと出会う直前の俺ときたら、数年間のヒキコモリの果てにあと1週間で手持ち資金がなくなりそうな危機的状況に陥っていたのだ。
 それと比べたら今は金はたんまりあるし、サクラから貰った豪華な持ち家もあるし、最高の仲間もいるしで、まさに天国だ。
 感謝するのは俺の方だっての。