「それは、たしかにそうかもですけど……」

 まだ少し納得がいっていなさそうなアイセルに、俺は優しく笑いかけながら、続く言葉を紡いでいく。

「なぁアイセル。アイセルと出会ってからの俺はさ、バッファーも意外と悪くないんじゃないかなって思っていたんだぞ? アイセルはバッファーの俺を、1人の冒険者としてちゃんと認めてくれていたからさ」

「そんなの当然ですよ! だってケースケ様はわたしが知らないことをたくさん知っていて、それを包み隠さず教えてくれて。それだけでなく、わたしのあがり症も治してくれました。今のわたしがあるのは、ひとえにあの時ケースケ様と出会えたおかげなんですから」

 アイセルが改めて、自分の思いを伝えてくれる。
 アイセルの切なる想いが俺の心に言葉とともにしっかりと伝わってきて、俺の胸はアイセルの想いでじんわりと温かくなってゆく。

「ありがとなアイセル。でもさ。それは俺も同じ気持ちだったんだよ」
「……え?」

「役立たずのバッファーと笑われて、俺が始めたパーティなのに追放されて、信じていた彼女も寝取られて。何もかも失ってどん底だった俺を、だけどアイセルは最初から1人の冒険者として認めてくれたから」

「ケースケ様……」

「そして今、こうして最高の仲間たちとパーティ『アルケイン』を組んで冒険できるのは、俺が他でもないバッファーだったからなんだ。バッファーだからアイセルやサクラ、シャーリーとパーティを組むことができた。みんなと冒険することができたんだ。今の俺はさ、バッファーであることをちょっとだけ誇りに思っていたりもするんだぞ?」

「誇りに……思う……」

 そう、今の俺はバッファーであることを少しだけ誇らしく思っていた。
 それもこれも、アイセルを始めとして俺を認めてくれるパーティ『アルケイン』の仲間たちのおかげだ。
 誰かに認められることで初めて、人は人たりえるのだ。

「どうだ? まだ納得できないか?」
「……いいえ」

 納得したことを示すように、アイセルが小さく横に首を振った。

「ってわけだからさ。悪いけどアイセルの提案は拒否させてもらうな。バッファーは俺にとってもう俺そのものってくらいに大切な職業になっちゃってるから。今さらジョブチェンジなんてできないんだ」

「そこまで言われてしまうと、わたしとしては引き下がるしかありませんよね。余計なお節介をしてしまい申し訳ありませんでした」

 アイセルが申し訳なさそうに、ぺこりと頭を下げた。

「おっと、勘違いはしないで欲しいんだけど、アイセルがジョブチェンジの提案をしてくれたことは本当に嬉しかったからな? そこは勘違いしないでくれな?」

「もちろんです」
 アイセルがにっこり笑った。

「あはは、ケイスケ教徒のアイセルさんがケイスケの気持ちを勘違いするなんてこと、あるわけないよねー!」
 まるでタイミングをうかがっていたかのように、話の切れ目を狙ってサクラが茶々を入れてくる。

「ふふっ、相変わらずサクラはいいことを言いますね」
「おいサクラ。教徒ととかいうな教徒とか。それじゃあまるで、俺が怪しげな新興宗教の教祖みたいじゃないか」

「え、自覚なかったの?」
「……」

 サクラだけでなくシャーリーまでもが「当然でしょ?」みたいな顔で、揃って俺に視線を向けた。

 ……え?