冒険の神ミトラが言葉を続ける。

【しかして、そのような高位の存在が極めて少なくなった今の時代においては、習得が難しく他にスキルを持たないバッファーは、たしかに無用の長物、不遇職であるやもしれぬ。それについては不明を詫びよう。愛しき我が子よ、苦労をかけた】

 やれやれ。
 今度は神様に詫びを入れてもらったぞ?
 こんな展開、昔話でもそうそうないぞ?

 Sランクパーティを2つも経験し、おかげで割と肝が据わっているはずの俺も、これにはどう答えていいものやら、さすがに言葉が出てこなかった。

「真実を教えていただきありがとうございました、ミトラ様」

 感無量の極致にいた俺に代わって、アイセルが話をまとめるように言った。

【構わぬ。愛しき我が子らの奮戦に報いたまで】

「ではそれを踏まえた上で――つまり現在のバッファーが不遇職であるというのを前提として、私からミトラ様にお願いがあります」

【なんなりと申すがよい】

 冒険の神ミトラの厳かな声に、アイセルはスッと背筋を伸ばして凛々しく答えた。

「では申し上げます。職業の変更はできますか? レベルはそのままで、違う職業へとジョブチェンジすることはできませんか?」

「アイセル、それって――」
 俺は即座にアイセルの意図を察した。
 だってそれは他の誰でもない、俺のためだったから。

 アイセルは自分のことではなく、俺のために神様の願いごとを使おうとしているんだ。
 アイセルは、意図を察した俺に優しく微笑むと、言った。

「わたしの目から見て、ケースケ様は冒険者として超一流です。様々な知識に精通し、完璧なクエスト攻略の計画を立て、戦闘時の作戦や指示も正確です。なのに後衛不遇職のバッファーというだけで、ケースケ様はこれまで正当な評価を得られませんでした」

「アイセル……」

「それこそ最優遇職とも言われる魔法戦士にでもなれば、ケースケ様は今からでも冒険者の歴史に名を残すことが可能なはずです」

 アイセルはそこで、再び俺から冒険の神ミトラへと視線を向け直すと、改めて冒険の神ミトラへと問いかけた。

「ミトラ様、レベルはそのままで、バッファーからの職業変更は可能でしょうか?」

容易(たやす)きことなり】
 答えはYESだった。

 それを聞いたアイセルが再び俺へと視線を向ける。

「ということのようなのですが。ケースケ様、このお願いはいかがでしょうか?」
「俺は――」

「今からでも遅くはありません。魔法戦士でも聖騎士(パラディン)でも、レベル121の優遇職ならどんなクエストだってへっちゃら、ケースケ様伝説の幕開けです」

 最不遇職のバッファーから、レベルはそのままで優遇職にジョブチェンジできる。
 ジョブチェンジすれば、開幕バフしたら後はいらない存在だった俺が、これからはみんなとともに肩を並べて戦うことができるようになるのだ。

 例えば聖騎士(パラディン)なら、前線でガンガン戦いつつ、ダメージを受けた味方を回復スキルで回復できる。
 アイセルと同じ魔法戦士なら、2人で切磋琢磨しながら腕を磨けるだろう。

 俺はアイセルやサクラと並んで前衛に立ち、シャーリーの魔法で援護を受けながら戦う自分の姿を想像してみた。

 とても――とても魅力的な光景だった。
 それは冒険者を志した幼い頃に憧れた「理想の冒険者」像に他ならない。
 なりたかった「理想の冒険者」になるチャンスが今、俺の目の前にあった。

「俺は――」

 俺の答えは――。