「はぁ? 明らかに不遇職じゃん! 目ん玉ついての? あ、のっぺらぼうだからついてないや。あはは、自分で自分に一本取られちゃった!」

 サクラが前半はプリプリしながら、後半は笑いながら指摘した。

「サクラ、おまえってヤツは神様を相手にしてもどこまでも素だよなぁ」
  人生楽しそうでなによりだよ。
 おかげで俺はいつ冒険の神ミトラが怒り出すのか心配で心配で、胃が痛いけどな。

 しかし冒険の神ミトラはというと、サクラに舐めた口を聞かれたっていうのに、意外なほどに懐が広かった。
 全く気にするそぶりも見せずに話を続ける。

【かつて神やそれに類する存在が、まだ地上に影響力を行使できた神話の時代の終わり。バッファーはそのような上位存在と戦うための、切り札たる職業であった】

「上位存在と戦うための切り札だって? 最不遇職のバッファーがか?」
 しかしさすがに意味が分からなくて、俺はついつい話に割り込んでしまう。

【然り。バフスキルによって味方全体を一気にパワーアップさせ、状況に応じて特化させた能力強化を行うことで、パーティ全体を上位存在とも戦えるように支援する。習得が極めて難しいためにそれ以外のスキルを持たず、段階を踏んでスキルの神髄を学んでいく。そうして一芸に特化することで、上位存在と戦うための切り札となる最強の職業。それが我が愛しき子らに用意した、バッファーという職業である】

 真実が今、語られた――他でもない、創造主たる冒険の神ミトラの口から。

「まさかバッファーがそんな特別な存在だったなんて、思いもよらなかったわ」
「わたしもです」
「へー、バッファーは最強の職業なんだって。よかったね、ケイスケ。実はすごかったんじゃん」

 シャーリー、アイセル、サクラが三者三様に驚いた。
 もちろん俺も、驚きとともに冒険の神ミトラの言葉に聞き入るしかなかった。

【先ほどの戦いがその最たる例であろう。神と呼ばれる程の強大な上位存在と戦うには、バッファーはなくてはならない職業なのだ】

「……なるほどな。そう言われると納得するしかないよ」

 今日の戦いに限らず、例えばレインボードラゴンと戦った時。
 俺のバフスキルはレインボードラゴンの7種に切り替わる必殺のブレスすら、問答無用で抑え込んだ。
 現存する最強種と名高いドラゴンの、その中でもブレスを得意とするレインボードラゴンのブレスをだ。

 改めて冷静に考えてみたら、ドラゴンの得意分野をたった一人で対処するなんて、ただの不遇職にできることじゃない。

 そしてそれは、たった1つのS級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』を、レベル120になるまでひたすらに磨き続けたバッファーだからできたことだったのだ。
 今まさに冒険の神ミトラが言ったように。

 そしてそういった上位存在との戦いがもっと身近にあった時代は、バッファーはなくてはならない存在だったのだ。

「成り手がほぼいない最不遇職のバッファー。それがまさか、神やそれに類する上位存在と戦うために用意された、切り札だったなんてな」

 まさかこんな裏話が聞けるなんて想像もしていなかったよ。
 これを聞けただけでも俺としては望外の大収穫だ。

「そうか、そうだったんだ。開幕バフしたら後はいらない子とまで言われるバッファーも、ちゃんと意味のある職業だったんだな。これを聞けたことが、俺は本当に嬉しいよ」

「ケースケ様……」
「ケースケ……」
「ま、今は意味ないんだけどね! あはは!」

「……ほんとサクラは自由気ままに感想を言うなぁ」
「また褒められちゃった。さすが私!」
「はいはい、お前は本当に大物だよ」

 俺は嬉しそうに胸を張ったサクラに苦笑を向けると、

「勝手に盛り上がって悪かった。話を続けてくれないか?」

 まるで子供の遊びを優しく見守る母親のように、話を中断して俺たちのやり取りを待ってくれていた冒険の神ミトラへと、視線を戻した。