「アタシも特にはないわね。しいて言うならパパにケースケを認めてもらうことだけど、さすがにそんなことを神様にお願いするのはねえ?」

 シャーリーが苦笑する。
 たしかに神様にお願いするにしては、それはあまりにも安すぎるお願いだな。
 そもそもこの最後のクエストをクリアしたことで、シャーリーのお父さんが出したクエストは全部クリアしたわけだし。

「私も特にはないかなぁ。パーティ『アルケイン』で毎日充実してるし、この前はなんとかって精霊からガングニルアックスももらったしね」
 サクラも特に願い事はないようだった。

「なんとかじゃなくて水の精霊ウンディーネな。ガングニルアックスなんて神話級の凄い武器をくれたんだから、名前くらい覚えておいてやれよ? アホそうに見えるけどあれでSランクの高位精霊なんだからな?」

 ウンディーネの名誉のために俺は一応、指摘をしておいた。
 自己顕示欲の塊のアホ精霊とはいえ、さすがに『なんとかって精霊』呼びは可哀想すぎるぞ。

「はーい」
 もちろんサクラからはなんとも適当な返事が返ってくる。

 まぁそれはさておきだ。
 3人とも特に願いごとはないようだったので、自然と皆の視線は残るアイセルに集中した。

 だけどアイセルは、パーティ『アルケイン』の中でも一番物欲とか願いごとがなさそうなんだよな。
 性格も控えめだし。

 だとすると困ったな。
 神様にする願いごとなんだから、下手な願いごとだと、なんかもったいない気もするしなぁ。

 なんてことを考えていると、よもやよもや、

「私は……実はあります。1つだけ叶えたい願いがあるんです」

 アイセルが真剣な顔をしておずおずと切り出した。
 ちょっと意外だったけど、もちろん悪いことじゃない。

「よし。ならアイセルの願いにするか。パーティはメンバーの協力あってのものだけど、それでもなんだかんだで一番貢献度が高いのは、エースのアイセルだしな。みんなはどうだ?」
「アタシもそれでいいわよ」
「意義なーし! 私もさんせー!」

 俺の言葉に、シャーリーとサクラが次々と賛成した。

「ってわけだから、アイセルの願いごとを叶えてもらうとするか」

「ケースケ様、シャーリーさん、サクラ。ありがとうございます」
 アイセルが礼儀正しく頭を下げた。

「それで、アイセルの願いごとはなんなんだ?」

 あの無欲なアイセルのたっての願いだ。
 ちょっと興味あるぞ。

「それなのですが、願い事を伝える前に、1つだけミトラ様にお伺いしてみたいことがあるのですが、もよろしいでしょうか?」
 と、ここでアイセルが突然ミトラに質問したいと言い出した。

【なんでも申すがよい】

「寛大なお言葉ありがとうございます、ミトラ様。ではお伺いいたします」
【うむ】

「そもそもなぜミトラ様は、バッファーという明らかに不遇な職を作ったのでしょうか? 私はケースケ様と一緒にパーティを組んでから、そのことがずっと気になっていました。なぜまともに戦うことができない不遇職を作る必要があったのか。せっかくの機会なので教えていただけませんか?」

「なるほど、それは俺も聞いてみたい質問だな」
 なぜ冒険の神ミトラは、わざわざバッファーなんて使えない職業を用意したんだ?

「アタシも興味あるわね」
「なんでバッファーなんてゴミカスクソザコ職業を作ったのか、せっかくの機会だし理由を聞いてみたくはあるよねー」

「サクラ、お前は本当にバッファーをメッタクソにに言うよな……」
 もう慣れたからいいけどさ。
 実際問題、サクラの口が悪いだけで、サクラのバッファー評は間違ってはいないわけだし。

 バッファーになった瞬間に冒険者になるのを諦める。
 そもそも成りり手すらいない最不遇職。
 それがバッファーという職業に対する普通の認識なのだから。

 さてと。
 冒険の神ミトラはこの問いになんと答える?
 さぁ答えを聞かせてくれ――!

 だがしかし。
 冒険の神ミトラが返した答えは、あまり意外すぎるものだった。

【バッファーは決して不遇職などではない】