その声は俺たちの頭の中へと直接語りかけてきた。

「これって――」
 右手の平を口に当てながら、驚いたように目を丸くするシャーリー。

「十中八九、冒険の神ミトラの声だろうな」
 俺は自分の声が震えていることを自覚していた。
 そりゃあそうだろ、だって神様が話しかけてきたんだぜ?

「わわっ! ってことはわたしたち、今神様としゃべっているんですね! アンビリーバボーです!!」
 戦闘態勢を解いて魔法剣『リヴァイアス』を鞘に戻したアイセルが、両手をグッと握って鼻息も荒く言う。

 アイセルは古代遺跡とか古代文明に興味があるみたいなので、人生最高ってくらいに興奮しているのかもな。

【左様。我は、我が愛しき子らの呼ぶところである冒険の神ミトラなり】

 再び頭の中に直接声が聞こえてくる。

「ふーん。で、神様は、私たちに何か言いたいことでもあるわけ? 負け惜しみ?」
 ……だがサクラだけは相変わらずだった。

「サクラおまえ、神様相手になんつー口の利き方をしてるんだよ?」

 相も変わらぬサクラのぞんざいな物言いだったが、冒険の神ミトラは特に気にした風でもなく言葉を続けた。

【良い戦いを見せてもらった。我が力と、我が想いが正しく受け継がれていることを、我は知ることができた。その礼というわけではないが、1つだけ願いを叶えてしんぜよう】

「願いを叶える――だって?」

【左様。神の力でもって、どのような願いでも1つだけ叶えてしんぜよう】

「なんでもって――」

【神話の時代の武具が欲しいというなら授けてみせよう。王になりたいというなら国を与えてみせよう。金銀財宝が欲しいというのなら一生かかっても使いきれぬほどの富を与えてみせよう。我は神、我にできぬことはない。さぁ愛しき我が子らよ、なんでも好きな願いを1つだけ言うがよい】

「そんなこといきなり言われてもな……ちょっと考えさせてもらえないかな?」
【構わぬ。悔いなきように存分に考えるがよい】

 俺は冒険の神ミトラの破格の申し出に、内心かなり驚きながらも。
 しかしリーダーとして動揺を見せないように平静を装うと、パーティ『アルケイン』のメンバーを一度見渡してから、緊急会議を始めた。

「聞いての通りだ。冒険の神ミトラがなんでも願いを叶えてくれるらしいが、どうする? ちなみに俺は特にそういうのはないから、なにか希望があれば従うよ」

 一時期の貧乏暮らしをしていた頃なら考える間もなくノータイムで『金が欲しい』と言っただろう。

 しかしアイセルがガンガンクエストを攻略してくれたおかげで、今はもうお金には全く困っていないし、拠点と言う名目で家をポンとくれたりする超お金持ちのサクラもいる。
 シャーリーはギルドマスターの娘でお金持ちだし、他にも町の有力者や武器屋の店主といった熱心な支援者が今はたくさんいた。

 俺はもう金銭的には充分に満たされていたし、何よりパーティ『アルケイン』という最高の仲間たちがいてくれることもあって、今さら取り立てて神様に何かを願うようなことは、ありはしなかった。
 最近は勃起不全(ED)も少しずつ解消してきてるしな。

 俺は意思を確認するためにシャーリーへと視線を向けた。