「シャーリーもお疲れ。ものすごい威力だったな。改めて、極光殲滅魔法はチートスキルだと思ったよ」

「アタシも改めて思ったわ、屋内では2度と使っちゃいけないってね。本気で死ぬかと思ったわよ」
「それに関しては心から同意だな」

 こんなもん、今回みたいな特殊な魔力障壁がない普通の屋内で使ったら、がれきの山の下敷きになるしかない。

「守ってくれたアイセルとサクラには感謝するしかないわね」
「それにも心から同意だな」

 俺とシャーリーは隠れていた後衛同士、顔を見合わせて笑い合った。


 最後に俺はアイセルに声をかけることにした。
 でもアイセルのことだから、いの一番に俺に声をかけてくるかと思ってんだけどな。

「アイセルもお疲れさん」
「……」
「アイセル?」
「……」

 しかし2度問いかけても、アイセルからは返事が返ってこなかった。
 別に死んでるわけではない。
 大きな怪我をしているわけでもないし、立っている様子はいつも通りに見える。

 どうしたのかと不思議に思っていると、俺はアイセルの表情がどんどん険しくなっていくことに気がついた。

 アイセルの視線は古代神殿遺跡の最奥、冒険の神ミトラが居た辺りを凝視している。
 シャーリーの極光殲滅魔法の直撃を受けた神殿最奥は、まだ煙や時おり走る極光の残滓によって視界が遮られていた。
 アイセルはそこをじっと見つめていたのだ。
 気配を感じ取っているようにも見える。

 まさか――。

「……まだです。冒険の神ミトラは健在です」
 アイセルが剣を構えながら、つぶやくように言ったその小さな声が、妙に大きく耳に響いた。

 極光が完全に収まり、煙が薄れ、視界が次第にクリアになっていく。

 そこには――、

「うそっ!? まだ生きてるし!」
「アタシの極光殲滅魔法を狭い屋内でモロに喰らったっていうのに、まだ倒しきれないなんて――」

 あれだけの激しい攻撃を受けたにもかかわらず、冒険の神ミトラがケロっとしたように立っていた。

 いや、ケロっとではないな。
 よく見ると、あれだけキラキラと光り輝いていた冒険の神ミトラの身体を覆う光はかなり薄くなり、ところどころ身体の一部がひび割れ、剥離しているのが見て取てる。

 だから決してダメージが通らなかったわけじゃない。
 俺たちの最終攻撃は、神様にすら少なくないダメージ与えることができたのだ。

 ただ、それでも。
 完全に倒しきることはできなかった。

「そんなぁ、これでもダメなんて……」
 いつもは強気で向こう見ずな発言が多いサクラが、絶望したように呟く。

「余波ですらサクラが全力で防御してもへとへとになるほどの攻撃を、ほぼ真上から直撃させられて、なおも立っていられるだなんて……」
 さしものアイセルも驚きを隠せないでいた。

「これが神様の力ってわけね」
 シャーリーも悔しそうな顔をしている。

 3人の声からは悲壮感が溢れていた。
 これでも勝てないのか、と。

 だけど、俺が考えていることは少し違っていた。

「サクラ、疲れているところ悪いんだが、一つ頼めるかな?」
 俺はガングニルアックスを支えに膝をついていたサクラに声をかけた。

「うん、いいけど」
「怒りの精霊『フラストレ』はまだ少し残ってるんだよな?」

「まぁまだギリギリなんとか? でも戦うのとかは無理だよ? 『フラストレ』が完全回復するには、2,3日はかかるんじゃないかな? 知らないけど」

「ほんと一番しんどい役をやらせちまって悪かったな」
「別にいいし。それがパーティ『アルケイン』での私の役目だもん。それで頼み事って?」

 言うと、サクラがうんしょと立ち上がった。
 ちょっと強がっているようにも見えるけど、まぁこの感じだと大丈夫かな。

「さっきサクラは言ったよな? 怒りの精霊『フラストレ』を通して、冒険の神ミトラの感情が見えるって」

「雰囲気をなんとなくだけどね」

「それで十分だよ。その力で今から同じようにもう一度、冒険の神ミトラの感情を見て欲しいんだ」

「え? うん、わかった」

 サクラがキリリと集中した顔で、冒険の神ミトラに視線を向けた。
 ちなみに俺たちがずっと会話を交わしている間も、冒険の神ミトラは棒立ちで突っ立ったままだった。
 俺の見立てが間違っていなければ、おそらく――