「よし、いい感じだぞアイセル、サクラ。ここまでは予定通りだ。ってことでシャーリー、そろそろ本命の出番だ。準備はいいか?」

 俺は視線を最前線で戦うアイセル達から、すぐ隣にいるシャーリーへと転じた。

「アタシはとっくに準備万端よ。いつでも行けるわ」
 シャーリーが自信に満ち溢れた返事を返してくる。

 俺はその返事に大きく一度頷くことで応えると、少しだけ戦況が進むのを待ってから、シャーリーに指示を出した。

「今だ、シャーリー! Go!」
「OK、ケースケ。行くわよ! 風は歌い、星は巡る――。世界を形造りし神なる元素よ、我はあまねく森羅万象の探究者なり――」

 俺の指示を受けて、まっ白な美しい杖を両手で構えたシャーリーが、即座に極光殲滅魔法の詠唱を開始した。

 同時に俺は、最後のバフスキルをかけ直す。

「S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動! 最後のはスピードに全振り、もう次はない。文字通り最後の勝負だ!」

 バフスキルの使い過ぎで頭の中に鋭い痛みが走る。
 痛みを押し殺しながら戦線へ視線を向けると、バフスキルによって現状上げられる最高速へと達したアイセルが、苛烈な攻撃を開始していた。
 バッファーの俺ではとても目では追いきれない驚異的なスピードでもって、冒険の神ミトラを圧倒する!

 Sランクパーティの最強アタッカーという呼び名に相応しい、天から落ちるイカズチのように鋭く、激しい嵐のように苛烈な攻撃だ。

 もちろんミトラは、それにすらすぐに対応をしてみせた。

 冒険の神ミトラの身体が僅かに光る。
 またもやバフをかけ直したのだ。

「でももう遅い!」

 この時点で既にサクラは戦線を離脱して、俺とシャーリーのすぐ近くまで戻ってきていた。

「任務完了。ただいま、っと」
「サクラ、お疲れさん」

 続けてアイセルも、打ち合いでわずかに距離が開いた一瞬の隙に身を翻すと、戦闘を放棄して俺たち目指して一目散に疾走してくる。

「お待たせしました!」
「お疲れアイセル、よくやってくれた」

 そして!
 スピード全振りのバフスキルの効果もあって、放たれた矢のように俺たちの元へと瞬時に到達したアイセルと入れ替わるようにして、シャーリーの魔法が完成した!

「我が意に応じたまえ、()は始まりの光にして全てを薙ぎ払う極光の(うず)。光あれ! 極光殲滅魔法、オーロラ・ボルテクス・エクスキューション!」

 高々と歌い上げた祝詞ともにシャーリーの呪文が完成すると、古代神殿遺跡の天井に、巨大な極光の魔法陣が浮かび上がった!

 光の魔法陣はグルグルと回転しはじめるとどんどんとスピードを上げ、その周囲に極光が渦を巻き始める。

 そしてそれはいつしか天地逆さまになった極光の竜巻となって、神殿内を蹂躙した!
 荒れ狂う極光のかまいたちが、閉じ込めるために張り巡らされた魔法障壁に跳ね返りながら、縦横無尽に襲い掛かってくる!

 古代神殿遺跡の中を、文字通り極光殲滅魔法が荒れ狂った!