「S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動!」

 冒険の神ミトラに再び挑んでいくアイセルとサクラの背中を見送りながら、俺はバフスキルを新たにかけ直した。

 バフのかかり具合を調整し、他のパラメーターを下げて、ほんの少しだけ速度上昇を高めに割り振る。
 ただし『ほんの少し』だけだ。

 少し遅れて冒険の神ミトラの身体が僅かに光る。
 今、俺がやったのと同じように、バフスキルをかけ直したのだ。

 真似したがりの冒険の神ミトラは、すぐにこっちのスピードにピタリと追いついてしまう。

「だが、それも計算通りだ」
 俺は心の中でほくそ笑んだ。

 今までの戦闘の中で、冒険の神ミトラが能力対応するのにわずかな時間をかけることを俺は見抜いていたのだ。
 今回はそのわずかなタイムラグを逆手に取り、徹底して突く!

「S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動!」
 俺はまたほんのわずかにスピードを強化したバフスキルを新たにかけ直した。

 僅かな速度アップを施したバフスキルを何度も何度もかけ直すことで、常にスピードで優位をとり続ける。
 これがまず最初の作戦だ。

 サルコスクス、ゴーレム、レインボードラゴン、キング・オー・ランタン、傭兵王グレタetc...
 超高ランク魔獣と戦って勝利し、いまや歴戦のフロントアタッカーとなったアイセルなら、スピードで負けさえしなければどんな敵であろうと、ある程度は渡り合える。
 たとえ戦う相手が神様であってもだ。
 それほどの絶対の信頼を、俺はアイセルに抱いている。

 さらに前線でアイセルとタッグを組むのは、同じく高度な戦闘経験を積み短期間でメキメキと腕を上げたサクラなのだ。
 この2人なら絶対に大丈夫だと、俺は確信していた。

 もちろんスピードで優位を保ち続けるには、かなりシビアなバフスキルの微調整が必要になるが、なにせ俺はレベル121のバッファーだ。
 ことバフスキルの扱いだけに関しては、歴代バッファーでも最強と言っても過言ではないだろう。

 たった1つしかないスキルを必死に磨き上げるバッファーのある種、病的なスキル熟練度を、舐めるなよな?

 ……まぁ、バッファーは最不遇職だけあってほとんどやっている人がいないから、高レベルのバッファーってだけで歴代最強を名乗れそうではあるんだけれど。

 バッファーという不遇職の悲しい話はさておき。

「これで速さ負けだけはしないはずだ。あとは任せたぞアイセル、サクラ!」

 さらなる冒険の神ミトラが再び速さを上げて対応してくる。
 しかしそれに合わせるようにして、

「S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動!」

 俺ももう一度バフスキルをかけ直した――さっきよりもさらに少しだけ速度の配分を上げて。

 冒険の神ミトラが追い付いたら即、俺もバフスキルを掛けなおして速さのリードを作る。
 後はもうひたすらこれを繰り返して、アイセルとサクラが有利な局面をなるべく長い時間作り続けるのが俺の役目だ!

「さあ、神様。ここからは不毛なイタチごっこに付き合ってもらうぜ?」

 もちろんバフで上げられる分には上限がある。
 速さを上げる分だけ、他を下げる必要もある。
 加えて俺のスキル使用限界という問題もあった。
 たて続けに何十回と使えば、レインボードラゴンと戦った時のように脳が焼ききれそうなほどの激しい頭痛に襲われ、スキルも打ち止めになる。

 だからアイセルにはバフで上げられる上限に行きつくまでに、所定の位置――神殿洞窟の一番奥――まで冒険の神ミトラを誘い込んでもらわないといけないわけだけど。

「甘いです、そこっ! はぁぁ! やぁっ! たぁぁっ!!」

 しかしアイセルは、俺の不安をいい意味で裏切ってくれる。
 サクラを上手く牽制に使って機敏に立ち回りながら、アイセルは冒険の神ミトラを古代神殿洞窟の奥へ奥へと巧みに誘い込んでいった。