「でも、そういうことなら、ここまで何もしてないアタシが一番の問題かな? アイセルは最前線でずっと戦い続けているし、サクラもさっきケースケを守って見せた。ケースケはスタート時点でバフスキルを使っているしこうやって作戦面でも貢献しているけど、アタシだけ何もしてないものね。でもここじゃ極大殲滅魔法は使えないしなぁ……」

「それなんだけど、実は使えなくはないんじゃないかと思ってる」
「無理よ。こんな山の中をくりぬいた洞窟で使ったら、間違いなく崩落しちゃうわ」

 シャーリーの言うことはもっともだった。
 だけど。

「普通ならな。でもここは今、俺たちが出られないように、特殊な魔法の防御障壁で覆われているだろ?」
「あ――っ!」

「それこそサクラの渾身の精霊攻撃すら跳ね返すほどの、ものすごい強度をもった防御障壁だ。シャーリーの極大殲滅魔法にも十分、耐えるんじゃないか?」

 なによりシャーリーの活躍を見せることが最後の勝利条件だとしたら、他に手はない。

「一理あるわね……」
「もちろん崩落する可能性はゼロじゃない。だけど、やってみる価値はあると思うんだ。アイセルとサクラはどう思う?」

 シャーリーが俺の案に乗り気なのを見て取った俺は、残りのメンバーであるアイセルとサクラに確認を取る。
 パーティ『アルケイン』は合議制。
 便宜上のリーダーは俺だが、原則、みんなの意見を集約するスタイルだからな。

「わたしはやるべきだと思います。今のままだと(らち)があきません。冒険の神ミトラにダメージが通ってる感じもないですし、私の体力も正直そろそろ厳しいです」

「私も賛成! シャーリーの魔法でサクッとアイツをボコしちゃおうよ!」

 アイセルとサクラが揃って頷いた。

「分かったわ。ここまできたらやってみる他ないわよね。でも耐えきれずに神殿遺跡が崩壊して大惨事になったら、ケースケが責任を取ってよね?」

「申し訳ないけど、その時はバッファーの俺が一番最初に死んでるんだよなぁ……」

 神殿のある山頂部がまるごと崩落した場合、一番最初に死ぬのは間違いなく後衛不遇職であるバッファーの俺だ。

「ご安心を。ケースケ様だけはわたしが絶対に、なんとしてでも守りますので!」
「ありがとうアイセル。もしもの時は頼りにしてるな」

 その時はさすがのアイセルも死んでいるんじゃないかな、とか野暮なことはここでは言わないでおく。
 パーティのリーダーの俺が言わないでいいことを言って、仲間の士気を下げる必要はないからな。

「アイセルさんなら、死んでも幽霊になってケイスケのことを守ってそうだよね! あはは!」

「こらサクラ、アイセルが死ぬとか縁起でもないこと言うんじゃない、士気が下がるだろ」
「はーい! すみませーん!」

「お前はほんと返事だけはいつもいいよな……」
 まったくお前って奴はよ。

「真面目なパーティ『アルケイン』には、私みたいな何でも思ったことを言うタイプがいた方がいいって言ったのは、ケイスケでしょ?」
 サクラが胸を張って言った。

「はいはいそうだな。馬鹿みたいな明るさと空気の読めなさが、サクラの最大の長所だもんな」

「あはは、ケイスケに褒められちゃった~!」
 無邪気に笑うサクラを見て、

「褒めてるかしら……?」
 シャーリーが小さく首を傾げた。

「ま、そういうわけだから、これからシャーリーの魔法を冒険の神ミトラにぶち込むぞ。作戦はこうだ」

 俺は作戦概要を説明していった。

「アイセルとサクラで、まずは冒険の神ミトラを神殿の一番奥に誘い込んでくれ。俺はバフスキルを調整して、2人がなんとか有利を取れるように援護をする」

「了解です」
「はーい!」

「十分に奥まで誘い込んだら、タイミングを見計らってシャーリーが極大殲滅魔法を撃ちこむ。その直前に2人は全力で俺たちのところまで退避だ。最終的にサクラは俺とシャーリーの盾になってくれ。間違いなく相当な余波が神殿遺跡内を駆け巡るだろうから」

「では最後の最後は、わたしが1人で冒険の神ミトラを引きつけますので、サクラは一足速く離脱して、ケースケ様たちのところに向かってください」

「うん、わかった!」

「わかっていると思いますけど、絶対にケースケ様を守ってくださいね? サクラのことを信じてますからね? 絶対の絶対ですよ?」
「アイセルさん、目が怖いよ……」

 神様とも張り合うほどのアイセルの圧を受けて、サクラが後ずさりをした。

 ともあれ。

「じゃあ行こうか。冒険の神ミトラが俺たちパーティ『アルケイン』の力を見たいってんなら、徹底的に見せつけてやろうぜ!」

「はいっ!」
「はーい!」
「ええ!」

 俺の言葉にアイセル、サクラ、シャーリーの3人が力強く頷く!

 さあ行くぞ、冒険の神ミトラよ!
 そんなに見たいって言うんなら、Sランクパーティ『アルケイン』の底力を思う存分に見せつけてやるぜ!