サクラの『武器投擲(とうてき)』スキルは、音速を越える。
 それとそっくりそのまま同じ性能を持つ冒険の神ミトラの『武器投擲(とうてき)』を、バッファーの俺の運動能力ではもう何をどうしたって避けきれなかった。

 だめだ、死ぬ。
 俺としたことが、考えに没頭し過ぎて完全に油断した。

 ならもうせめて、シャーリーだけでも助けないと!

 俺は腕を引っ張るシャーリーを、反対の手でドンと突き飛ばした。
 2人とも巻き込まれるより、俺1人がやられる方がマシだと瞬間的に判断したからだ。

「ケースケ――」
 俺に突き飛ばされたシャーリーが目を見開く。

 大丈夫、一応勝算はあるんだ。
 俺の装備はパーティ一強固なSランク防具『星の聖衣』だ。
 当たり所が良ければ、なんとか生き残れる可能性もあるはずだ――!

「神様……!」

 俺は少しでもダメージを減らそうと身体を小さく丸めて被弾面先を減らし、奥歯をぎゅっと噛みしめながら、両腕で頭を抱えて守って来たるべき衝撃に備えた。

 しかし攻撃が俺の身体に届くことはなかった。

 ズドーーーーン!!
 代わりに鼓膜をつんざくようなものすごい衝撃音が古代神殿内に響き渡る。

「ぐぬぬ……っ! すっごい威力だし……! 腕がちぎれそう……! でも、うがーーーーーーーっ! 舐めんなぁ!!」
 俺の前にはガングニルアックスを盾のように構えたサクラが、仁王立ちしていた。

「サクラ、お前……」
「まったくもう。ケイスケは回避はカメだし、防御もチリ紙なんだから、よそ見とかしないでよね! 死ぬでしょ馬鹿!」

「わ、悪い」

 見るとバトルアックスの射線上の床に、途中から何かを擦ったような2本の跡が一直線にサクラの足元まで続いていた。
 つまりサクラが途中で強引に射線に割り込んで、バトルアックスの投擲を受け止めてくれたのだ。

 2本の線の跡は、サクラが必死に足を踏ん張って防御してくれた証だった。

「少し離れてずっとチャンスを窺ってたのが幸いしたかなー。もしアイセルさんと一緒に接近戦をしてたら、今のは絶対割り込めなかったし」

 そう言ったサクラの右腕は――受け止めた衝撃のものすごさを語るように――だらりと力なく垂れ下がっている。

「おまえ腕が……」
 想像を絶する威力だったのだろう。
 バーサーク状態で痛みをあまり感じないはずのサクラの顔は、激しく苦痛に歪んでいる。

「ふーんだ! 別にこれくらい平気だし! ちょっと神経がズタズタになって、骨がぐちゃぐちゃに粉砕骨折してて、筋肉がブチブチの細切れになってるだけだもん」

「超重傷じゃねぇか。さしものバーサーカーの再生能力でも、それだけの傷はすぐには回復しきれないぞ」

「だから舐めんな、ってね! はぁぁ……っ! 怒りの精霊『フラストレ』の力を回復に全集中!」

 威勢よく叫んだかと思うと、すぐにサクラの右腕から白い湯気が上がりだして、ぼろぼろになった右腕が見る見るうちに再生していった。

「おおっ!?」
「どんなもんよ!」
 回復ぶりを見せつけるように、サクラが右手をブンブンと大きく振った。

 いまやバーサーカーの力を完全に使いこなしたサクラは、これほどの大ダメージであっても、わずか数秒で回復することができるようだった。