「アタシたちを攻撃する理由……ね。ちなみにケースケは何か思いついたのかしら?」

「いやそこまではまだだ。シャーリーは何か思いつかないか?」

「残念ながらケースケが思いつかないことを、アタシがパッと思いつくことはそうそうないと思うのよね。というわけで、期待してるわよケースケ?」

 にっこり笑うと極上のウインクを飛ばしてくるシャーリー。

「一応、一緒に考えてはくれるんだよな?」
「もちろんよ。なにせ今回は、見ているだけのアタシが一番役に立ってないわけだし」

 考える方向性が定まった俺は、頭の中でもう一度情報を整理してみた。

 ・エンジェルの正体は冒険者の神様であるミトラ神だった。
 ・俺たちを『愛しき我が子ら』と呼んでいることから、敵とは認識されていないはず。
 ・なのに攻撃を仕掛けてくる。
 ・しかし本来、冒険の神ミトラは俺たちは味方のはずだ。
 ・そして冒険の神ミトラは全職業の全スキルが使えるはずなのに、俺たちの4人の持つスキルだけしか使わずに、縛りプレイで戦おうとする。
 ・なにより簡単に勝てるはずのに、なぜか延々と長引かせて勝負を決めには来ない。
 ・おそらく本気で殺しに来てはいない。

 判断力も含めたアイセルの総合的な戦闘力が、それだけすごいってのもあるんだろうけど、それでも相手は神様なのだ。
 冒険の神ミトラが本気を出せば、俺たちは一瞬で完膚なきまでに敗北するはずだった。

「どうして冒険の神ミトラはこんなにも面倒なことをしているんだ? 勝敗は目的じゃないってことか?」

 なら、冒険の神ミトラの目的はなんだ?

 考えろ、考えるんだ。
 開幕バフしたら終わりのバッファーは、こうやって考えることくらいでしかパーティの役には立つことができない。

 だからアイセルが、苦しい状況をなんとか跳ね返そうと必死で戦ってくれている間に、攻略のための糸口を見つけるんだ――!

 わずかだが突破口の片鱗は見え隠れしている。
 だから死ぬ気で考えろケースケ=ホンダム!
 これが俺がずっと続けてきた、パーティへの貢献の仕方なのだから!

 俺はシャーリーとともにこの状況を打開すべく、頭をフル回転させて思考の深みに潜っていたんだけど――、

「ケイスケ、ぼーっとしてちゃダメ!」

 突然サクラの鋭い声が飛んできて、俺はハッと意識を戦闘へと戻した。

「くぅっ――!」
 見るとアイセルが空中に激しく弾き飛ばされていた。
 即座に体勢を立て直していたが、そのわずかの間隙に、冒険の神ミトラがこっちに向かって、巨大なバトルアックスを投擲(とうてき)しようとしていたのだ――!

「バトルアックスを投擲!? まさかサクラの『武器投擲(とうてき)』スキルかよ!?」

 しまった!
 ずっとこっちをノーマークだったから、攻撃はしてこないものだと思って戦闘中だっていうのに迂闊(うかつ)にも考え事に集中し過ぎた――!

「ケースケ!」

 慌てて逃げ出そうとする俺の腕を、シャーリーが鋭い叫び声とともに横合いから強く引っ張る。
 だが、くそっ!
 だめだ!
 もう間に合わない――!

 投擲されたバトルアックスが大気を切り裂く衝撃波を放ちながら、信じられない速度で俺に向かって一直線に飛んできた――