「まずいわね、せっかくエンジェルの正体を暴いたのに、これで本格的に打つ手なしよ? サクラですら、もう戦闘には完全に割って入れないでいるし、アイセルの最強スキルまで防がれちゃったんだもん」

 シャーリーの言うことはもっともだった。

「あまり言いたくないけど、神様だけあってちょっと強すぎるよな。何から何までもう反則レベルで強すぎる」
「アタシたち2人なんて、(はな)から戦力外だもんね」

「これをどうやって攻略したものか……」
 何とかこの神様の攻略法を見つけないといけないんだけど、神様の攻略法って言ってもなぁ……。

「でも本当にアイセルはすごいわよね。こんな強大な神様を相手に、ずっといい勝負を続けているわけだし。さすがはパーティ『アルケイン』が誇る最強エースだわ」

「……ずっと続けてる?」
 シャーリーのその言葉が少し引っかかった。

「え? そうでしょう? 戦い始めてからずっと、ほとんど1人でアイセルが戦っているんだもの。さすがよね」
 神様という想定をはるかに超えた超越存在相手に、アイセルはずっと戦っている――戦えている。

 だが待ってほしい。
 さすがにそれはおかしくないか?
 だって相手は神様なんだぞ?
 しかも俺たちパーティ『アルケイン』全員の力を使いこなせるんだ。
 アイセルが強さと用心深さを兼ね備えているといっても限度があるはずだ。

「それってつまり、裏を返せばエンジェル――これからは冒険の神ミトラって呼ぶか――は勝てるはずなのに、勝とうとしていないってことでもあるよな?」

「まぁ……そういうことになるのかしら? もしかして何か思いついたの?」

「それはまだなんとも……でも正体がわかったことで、取っ掛かりみたいなのは少しずつ見えてきたような気がするんだ」

「気になることでもあるの?」
「気になるっていうか、冒険の神ミトラはどうして俺たちを襲ってくるのかなって思ってさ。しかも謎の縛りプレイで」

「襲ってくる理由としたら……そうね、やっぱり勝手に神殿に入ったからかしら?」

「その可能性もなくはないけど。でもそれなら問答無用で俺たちを殺しに来るか、防御結界なんて張らずに追い出すはずだろ?」
「あ、そっか。イチイチ真似して戦ったり、神殿内に閉じ込めたりする必要はないわよね」

 つまり、俺たちを倒すことが目的じゃない。

「なにより相手は冒険の神ミトラなんだ。普通だったら、冒険の神様なんだから俺たち冒険者の味方になってくれこそすれ、敵になるのはおかしくないか?」

「あ――」

「冒険の過程で古代神殿を見つけて入ったからって、それで冒険の神様が怒ったりするか? むしろ喜ぶんじゃないのか?」

「そうよね、ミトラは冒険者を導く冒険の神様だもの、本来アタシたちとは戦う必要がないはずだわ」

「だろ?」
 冒険の神ミトラは俺たちにスキルという力を与え、導く存在なのだから。

「じゃあアタシたちを敵と勘違いしているとか? あ、でも最初に『愛しき我が子ら』って言ってるからそれはないわよね」

「ああ。冒険の神ミトラは、俺たちを冒険者だと正しく認識した上で戦っている。しかも敢えて力を抑えながら、イチイチ技をコピーしながら、だ」

「確かに変よね。なにか意図がある……」
「その意図を知ることこそが、状況打開の鍵になるんじゃないかなって、ちょっと思ったんだよな」

 俺は結論を述べた。