「急に黙り込んでどうしたの、ケースケ? もしかして何かわかったの?」
 黙り込んだ俺に、シャーリーが心配半分、期待半分といった様子で問いかけてくる。

「まだだけど、でもあと一歩でわかりそうな気がしなくもない……なぁシャーリー。真似って、普通は格下のやつがやるもんだよな」
「そうね。上手くなるために、上手い人の真似をするのはよくあることよね」

「だろ? だからさ、エンジェルは真似をしているんじゃないと思うんだ」

「そうは言ってもどう見ても、現状エンジェルはアタシたちの真似をしているように見えるわよ? アイセルなんて自分と同じスキルを何度もこれ見よがしに使われているわけだし、やっぱり真似をされているんじゃないかな?」

 シャーリーの言うことはもっともだ。

「表面上はそうなんだけどさ。うーん、なんて言ったらいいのかな――」

 違和感はあるのに、まだそれを確たる言葉にしきれないもどかしさが俺を襲う。
 こうしている間も、アイセルとサクラは激しく戦い続けているというのに。
 あと少し、なにか最後のピースがあれば――。

「じゃあいっそのこと発想を転換して、逆にアタシたちがエンジェルを真似ている――なんてね。って、ごめん。さすがに意味不明よね」

 シャーリーが言った「逆」という言葉。

「そうか! 逆なんだ! そうか、そういうことか!」
 その瞬間、俺の中で全てが繋がった。

 そうか、そういうことだったのか!
 謎は全て解けた――!

「ちょっとケースケ、急に大きな声を出してどうしたのよ? 何が逆なの?」

 突然大声を出した俺に、シャーリーが驚きと疑問が入り混じった顔を向けてくる。
 俺は一度頭の中で順序だてて整理すると、シャーリーに自分の見立てを伝えた。

「全部逆なんだよシャーリー。そうだよ、エンジェルが真似をしているんじゃないんだ。俺たちがエンジェルの力を真似して使っているんだ」

「ちょっとケースケ、今のは冗談だってば。そもそもアタシたちの力は、アタシたちが冒険者として手に入れた力でしょ? 今日初めて戦うエンジェルとは関係ないわ」
「そう、俺たちは冒険者なんだよ。それが答えなんだ」

「アタシたちが冒険者なことが答え……? 冒険者とエンジェルに何か関係があるってこと?」
 俺の言葉に、シャーリーがイマイチ要領を得ないって顔を見せる。

「思い出してくれシャーリー。祭壇が光ってエンジェルが顕現する直前に、声が聞こえたよな?」
「ええっと、確か……『我が力を受け継ぎし、高みを目指す愛しき我が子らよ──』だったかしら?」

「ああ。それで、もしこれをエンジェルが言ったと仮定すれば、どうなると思う?」

「そうね……そのままの意味にとれば、エンジェルの『子』がアタシたちってことかな?」

「そうだ。エンジェルが『親』で、俺たちが『子』だ。そして俺たちは冒険者だ。するとどうなる?」
「つまりエンジェルは、冒険者を自分の『子』だって言えるような存在ってことなわけね?」

「そういうこと。だから真似ているのは俺たちの方だと考えるべきなんだ」
「アタシたちがエンジェルを真似ている……」

「しかもエンジェルは、こうやって巨大な神殿に祭られるような高位存在ときた。そしてそういう存在に、俺たちは1つだけ心当たりがあるじゃないか!」

「なっ、それってまさか――」

 俺の言葉にシャーリーがハッとした顔を見せた。
 どうやらシャーリーも俺と同じ答えに行きついたようだ。

「そのまさかさ。エンジェルの力を受け継いだのが俺たち冒険者だとすれば、簡単に俺たちの力をコピーして使うのにも納得がいくってもんだ」
「そっか、そういうことだったのね。だからこんなにも簡単にアタシたちの力をコピーして使えるんだ……」

「そう、だって冒険者の力――職業やスキルは元々エンジェルが持っていたものなんだからな」

 つまりその意味するところは――、
「つまりエンジェルは――冒険の神ミトラなのね?」

 ゴクリ、と喉を鳴らしてから、シャーリーがおごそかに呟いた。