「なあ、シャーリー」
「どうしたのケースケ?」

「この古代神殿遺跡に祭られていたのはエンジェルってことで、間違いはないよな?」
 俺は自分の中でまだ曖昧であやふやで不確かな「気づき」を、明確な結論として形作るために、まずは思い付くままに言葉にしていく。

「絶対100%とは言い切れないけど、まぁ高確率でそうだと思うわよ? だって祭壇が光ってから、いかにもって感じで現れたわけだし。これで無関係なら詐欺でしょう?」

「じゃあさ、それを踏まえた上で一番最初の話に戻るんだけど。その祭られていたエンジェルっていったい何者なんだろうか」
「え?」

「そうだよ、そもそもこいつ――エンジェルは何者なんだ?」
「ちょっと待ってよケースケ。それがわからないから対応策も考えられなくて、こうして苦労しているわけでしょ?」

「まぁそうなんだけどさ。でもこんな風に俺たちのスキルや戦い方を次々にコピーしてみせる能力――そんな風にただ相手を真似て戦うだけの高位存在なんて、普通いるか?」
 エンジェルに対する俺の最大の疑問点はここにあった。

「……なるほどね、そう言われてみると確かに変だわ」

 一瞬ハッとした顔を見せたシャーリーが、軽く握った右手を口元に当てる。
 俺の言いたいことがシャーリーにも伝わったようだ。

「仮にいるとして、一体全体何のために敢えてそんな風に俺たちを真似して戦うんだ? その行為に何の意味があるんだ? 目的はなんなんだ?」

「そうよね、これだけの強大な力があるんだもの。なんでアタシたちの真似をして戦うのかしら? わざわざ自分の力を制限してまで。普通に戦えばいいだけの話よね」

「だろ? それがどうにも気になってるんだよ」

 エンジェルが、しなくてもいい縛りプレイで戦う意図はなんなんだ?
 何が目的なんだ?

「つまりエンジェルは、敢えて自分の力を制限しながら戦ってるってことでしょ? ってことは、例えばわたしたちを舐めていて、いたぶって殺そうとしてるとか?」

「これだけ異常な強さを持った相手にそんなことをされると、正直打つ手はないな」

 Sランクパーティのエースアタッカーのアイセルが全力で戦っても後れを取り、パワー自慢のサクラの精霊攻撃を、無傷で弾き返す魔法防御壁まで作り出せる。
 バッファーの俺にいたっては、高速戦闘の動きを目で追うのすら厳しいときた。

 さすがにこいつは強すぎる。
 Aランクの魔獣ですら子猫に見えるくらいの圧倒的過ぎる強さだ。
 だから単になぶり殺しにするのが目的で手を抜いているのなら、残念ながら俺たちに打つ手はないが……。

「もう、今のは冗談だってば。でもこんな古代神殿に祭られるくらいなんだから、エンジェルの格は相当なものだと思うのよね。それこそ神様ってくらいに」

「神様か……。そんな超が付くほどの高位存在が、敢えて力を制限して俺たちの真似をして戦っている。俺たちの真似をして……真似? 真似??」

 その瞬間、俺の中に何かが繋がりそうなハッとする感覚があった。
 俺は今、何かに気付きかけている――!

 繋がりそうで、だけどまだ全然繋がっていない無数の糸を、必死に手繰り寄せるように俺は考え込んだ。