「はぁぁっ!」

 全力全開モードになったアイセルの目にも止まらぬ連続斬りが、しかし全て空を切った。

 そしてアイセルの攻撃をかわしたと同時に一瞬にして後ろに回り込んでいたエンジェルが、アイセルが放ったものとそっくりそのまま同じ高速の連続斬りを繰り出してくる。

 アイセルは防御も回避も間に合わず、背中から無残に斬り裂かれてしまい――しかしそれは回避スキル『質量ある残像』によって形作られたニセモノだった。

 斬られたアイセルの姿が蜃気楼のように立ち消える――!

 そしてその時もう既に、本物のアイセルはエンジェルの真上に飛び上がっていた。

 空中へと飛び上がったアイセルは『空中ステップ』によって足場のない空中で猛烈に加速すると、

「貰いましたっ! たぁぁっっ!!」

 体重を乗せた強烈な一撃を叩きつける!

「よしっ、いいぞ!」
「完璧に決まったわね」
「やったぁ!」

 誰が見ても完璧な一撃がエンジェルを真っ二つに斬り裂いた。

 しかしアイセルに斬られたはずのエンジェルの姿が、これまた蜃気楼のように掻き消えていって――!

「わわっ!? これは『質量ある残像』!? またわたしのスキルをコピーして! でも負けません!」

 アイセルは一瞬、驚愕の色に顔を染めながらも、すぐにキリッとした引き締まった表情に戻ると、エンジェルに向き直った。

 再び始まる速く鋭く、激しい一騎打ち。

 完全に両者互角の、息つく暇もないアイセルとエンジェルの高速戦闘が続く中、サクラはなかなかそこに割って入れないでいるようだった。

「う~、なかなか踏み込めないし! でも私が攻める姿を見せるだけでも牽制になって、それでアイセルさんの援護になるなら頑張るもん!」

 しかし攻撃参加できないなりに、サクラも今自分にできることを全力でやろうとしていた。

 アイセルに指示された通り、チャンスがあれば一発でものにしようとサクラが極限まで神経を研ぎ澄ましているのが、俺たちのところまで伝わってくる。

 昔のサクラなら、新しい技を覚えたらすぐ使いたがったり我慢できずに不用意に突っ込んだりと、自分が自分がって気持ちが強すぎて周囲を顧みれないことも多かったのに、すっかり一人前になったな。

 サクラもまた、パーティ『アルケイン』での濃密な実戦経験を経て、心身ともに急激に成長していたのだ。

 そんな2人の全力を尽くした戦いを俺と並んで見守っていたシャーリーが、少し呆れたようにつぶやく。

「それにしても本当に何でもありよね。アイセルの速さやスキルに、サクラのパワー、さらにはケースケのバフまで使っちゃうんだから」

 俺もその意見には全く同感だった。

「まったくだな。本当になんなんだこいつ? 真似するって言っても、そんな簡単にいろんな職業のスキルをパッと真似できるもんじゃないだろ」

 まさか戦闘開始前にたった1度使っただけのバフスキルまでコピーされているとか、想定外のさらに上を行く、完全場外の想定外だぞ。

「そう言えば入り口を通れないように封じていた透明な壁は魔法だったから、もしかしてアタシの力ももうコピーされちゃってたりするのかしら? 仮にされていても、この閉鎖空間で極大殲滅魔法が使われることはないとは思うんだけど」

 そう何気なく言ったシャーリーの言葉が、ピクッと俺の脳裏に引っかかった。