「は? 嘘だろ?」

「まったく、わたしやサクラだけならまだしも、ケースケ様のS級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』までコピーするなんて、これは許せませんよ!」

 やたらと怒りの表情を見せるアイセルだけど、アイセルの言葉に一番驚いていたのは他でもない、この俺自身だった。

「こいつバフスキルを使ったのか? 最不遇職のバッファーのスキルを、か?」

「はい、この突然の能力の上がり方は、いつもわたしたちが感じているものとそっくり同じなんです」

「うんうん、急にグワッ!てなってフオオオッ!てなる感じだよね!」

「いやだって、S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』は戦いが始まる前に1回使っただけだぞ? そんなものまでコピーしたって言うのかよ?」

 あの一瞬で盗み取られたとかありえないだろ!?

「でもアイセルだけじゃなくてサクラも同じように感じているってことは、思い違いじゃないんでしょうね。そうでなくてもアイセルの直感力はずば抜けてるわけだし」

「ってことはつまり、今までは俺のバフスキルの分だけこっちが有利だったのが、エンジェルもバフスキルを使ったことでこっちの有利がゼロになったってことか?」

「まぁ、そうなるんでしょうね」

 おいおいおいおい。
 なんだよそれ?

 だってそれって現状、俺の存在意義が完全にゼロになったってことなんだけど?

 開幕バフしたら終わりのバッファーが、バフスキルをコピーされてバフで上げた効果分を実質相殺されたら、もうこれガチの役立たずじゃん?

「あはは、ケイスケの存在意義がマジでなくなっちゃったね! ウケる!」

「お前はイチイチ俺の心をエグる暇があったら戦闘に集中してろ!」

「そんなのわかってるし! バフスキルがなんぼのもんじゃい! これはケイスケの弔い合戦だからね! うおりゃぁぁっ!」

「なにが弔い合戦だ、俺は死んでねぇっつーの!」

「もちろんです、わたしがいる限り決してケースケ様を死なせたりはしませんから」

「でりゃぁっ! ケイスケの(かたき)!」

「だからお前は縁起でもないこと言うんじゃねえよ!? 俺のバフが実質無効化されて存在意義がなくなっただけで、俺は生きてるっつーの!」

「ちょっとケースケ、遊んでないでちゃんとして。今は真面目な場面なのよ?」

「えぇっ、また俺が悪いのかよ……?」

 いやいいけどね?
 サクラなりに俺を元気付けようとしてくれたけど、ちょっと言葉足らずだったんだろうし。

 だよね?
 きっとそうだよね?

 使えないバッファーは死ねとか思ってるわけじゃないよね?
 ね?

 と、ともあれ。
 再びアイセルとサクラが戦闘を開始した。

 しかし今までと違って俺のバフスキルによる有利がなくなったせいで、戦いはどっちに転ぶかわからない厳しい戦いになっていた。

 今までエンジェルと激しく打ち合っていても決して失わなかった落ち着いた表情が、今のアイセルからは完全に抜け落ちてしまっている。

「サクラ、あまり前に出ないでくださいね。今のエンジェルの速さだと、大振りなサクラが打ち合うと速さ負けして一方的にやられちゃいます」

「ううっ、そうだけど! でもでもそれじゃアイセルさんの負担が――」

「わたしなら大丈夫。パワーは負けていますがスピードは互角なので、なんとか渡り合えます。それにサクラが常にチャンスを狙ってくれれば、それだけでエンジェルに対して十分すぎる牽制になりますから」

「う、うん」

「だからサクラはまずは防御を絶対優先しつつ、隙があったら一撃を入れることだけを考えて」

「わかった! まずは防御に専念、狙いはワンチャンス」

 サクラが少し引いたポジションを取り、逆にアイセルがぐっと前に出る。

「では、わたしもここからはトップギアで行きます! 勝負です、エンジェル!」

 アイセルとエンジェルの半ば一騎打ちのような戦いが始まった。