「アイセル、何か分かったのか?」

「はい、ケースケ様。とりあえずエンジェルの動きのパターンは掴めました。というかわたしたちの動きをコピーしています」

「アイセルとサクラの動きを真似しているってことか?」

「ほぼ間違いありません。エンジェルがバトルアックスを振るう時に、サクラが見せる微妙な癖が随所に出ていますから」

「ええっ、なにそれ真似っ子じゃん! ずるいっ!」

「ですが所詮はただのコピーです。真似するだけなら脅威にはなりえません。真似をすると分かっていれば、逆に先も読みやすいというものですから」

「わっ、さすがアイセルさん!」

「では種明かしが済んだところでサクラ、一気に片を付けますよ! タイミングを見計らってコンビネーション・ベータです! 動きをコピーされる前に、初見殺しで決めます!」

 アイセルはもうエンジェルの動きを脅威と思っていないようだった。
 その言葉からは強い自信の程が見て取れる。

「コンビネーション・ベータね、了解!」

 サクラの返事に頷きで返したアイセルが、得意の高速機動戦闘を始めた。

 スキル『空中ステップ』などを駆使して三次元立体機動をしながら様々なフェイントで撹乱し、アイセルは強烈な一撃を次々とエンジェルに打ち込んでいく。

 さっきまでの互角の戦いが嘘のように、エンジェルは途端にアイセルの動きについていけなくなった。
 素人の俺が見てもはっきりと分かるほどだ。

 さらに!

「うぉりゃぁぁぁぁっ!!」

 アイセルの動きと連動して、サクラが要所要所で破壊力抜群の一撃を打ち込むのだ。

 そしてサクラの痛撃でバランスを崩したエンジェルに、アイセルがさらなる一撃をお見舞いする。

 息の合った2人が繰り出す、全く切れ間のない分厚い連続攻撃は、エンジェルを瞬く間に防戦一方へと追い込んでいた。

「あの2人はどんどん強くなっているわね。連携に全く無駄も隙もないもの」

「ああ、近接戦闘は素人の俺でも、2人の意志疎通が完璧なのが見て取れるよ」

「強いて言うなら、サクラがまだ状況判断が少し甘いところもあるかなってくらいなんだけど──」

「それもアイセルがしっかりと見て、常に状況を予測して先んじて動いてカバーしてるから、何の問題もないもんな」

「そうね。むしろサクラのちょっとした動きの悪さがアクセントになって、敵に的を絞らせてないまであるわ」

 今できることを最大限活用して、本来2になるはずの1+1を、3にも4にもしてしまう。
 サクラが成長途中で未熟であることさえも、アイセルにとっては強力な手札の1つなのだった。

「アイセル、本当に成長したな」

 アイセルの成長ぶりに満足を覚えながら。
 これはそろそろ決着がつきそうだな――俺がそう戦況分析をしかけた時だった、

「……? エンジェルが急に速くなった? くっ、重い! 攻撃の威力も大幅に上がっています! え? でもこれってまさか――」

 アイセルの顔が急に険しくなったのは。

「あ、うん、すごく似てるよね!」
 アイセルのなんとも意味が曖昧な呟きを聞いて、なぜか俺に視線を向けるサクラ。
 その真意とは――。

「ええ、これは間違いありません、ケースケ様が使うものと同じバフスキルです! エンジェルは自分にバフスキルを使ってパワーアップしたんです!」

「だよね! やっぱり!」

 なんと真似っ子大好きなエンジェルは、アイセル達の武器や動きだけでなく、俺のバフスキルまでコピーしたらしかった――!