「ケースケ様、光が集まって人の形をとろうとしています! くっ、なんて強烈なプレッシャー……!」

「信じられない、何が相手でも戦いたがる怒りの精霊『フラストレ』が怯えちゃってる……! ケイスケ、コイツものすごいヤバいヤツだよ! 多分前戦ったドラゴンより!」

 アイセルとサクラ。
 どこに出しても恥ずかしくないSランクパーティのフロントアタッカー2人が、一瞬で気圧されるほどの高位存在ってことか――!

「緊張事態だ、一旦遺跡の外に出るぞ! アイセル、殿(しんがり)を頼む!」
「心得ました!」

 想定外の異常事態が起こったと判断した俺は、セーフティ・ファーストで間髪いれずに撤退を指示した。
 アイセルが最後尾で警戒しつつ俺たちは入り口まで走ったんだけど──、

「ちょっとケイスケ!? なんか入り口が透明な壁みたいので塞がってて、出れないんだけど!?」
「なんだって!?」

 退路を確保するべくいち早く入り口へと到達していたサクラが、突如出現した見えない壁に阻まれて立ち往生していた。

「外は見えてるのに透明な壁があって通れないの! しかもなにこれ、ちょお硬いんだけど! このっ! ぬぉぉぉぉっ! 精霊攻撃! このこのっ! うがーッ! 硬いって言ってんでしょ、こんにゃろぉっ! ゴルァッ!!」

 サクラが怒涛のラッシュを繰り出すものの、透明な壁 (?)に傷一つつけることなく、いとも簡単に弾き返されてしまう。

「おいおい、サクラの精霊攻撃ですら全く歯が立たないとか、何でできてるんだよ? いやそれよりもどうする? 完全に閉じ込められたぞ」

「ケースケ様、ここはわたしが! サクラ、コンビネーション・アルファです!」

 見えない壁に行く手を阻まれた俺たちに追いついたアイセルが、サクラに指示を出した。

「アイセルさん! 分かった! 行くよ、精霊攻撃! うおりゃーーっ!!」

 サクラが透明な壁(?)に向かってバトルアックスを渾身のフルスイングした。
 離れた位置にいる俺まで風圧を感じるほどの、今日一番の強烈な一撃だ。

 ガギャギャギャギン!

 しかし耳をつんざくものすごい金属音とともに、やはりサクラの攻撃は傷一つ付けることなく弾かれてしまう。

 だがサクラはバトルアックスが弾かれた反動を上手く利用して飛び退き、スペースを空けた。
 そしてそこに、

「一点突破です! 全力集中!」
 全身から猛烈なオーラを立ち昇らせたアイセルが、入れ替わるように飛び込んだ!

「剣気解放――! 『《紫電一閃(しでんいっせん)》』!」
 サクラが攻撃した場所を、アイセルの最強スキルが寸分違わず狙い撃つ!

「おおっ!? 流れるようなコンビネーションだ!」

 連携訓練を相当重ねていたのだろう。
 サクラとアイセルの阿吽の呼吸によるピンポイント連続攻撃に、俺は驚きの声を上げたんだけど――、

 ギャギギギンッッ!

「くぅっ!? まさか『精霊攻撃』から『《紫電一閃(しでんいっせん)》』への連続攻撃まで弾かれるなんて!?」

 サクラとアイセルの必殺コンビネーションアタックを受けてなお、透明な壁はびくともしなかったのだ――!

「おいおいマジかよ? 今のはどっちもSランクの魔獣も仕留められる必殺技を、連続で打ち込んだってのに」

 それはつまり俺たちがこの透明な壁を突破する術はなく、完全に退路を断たれたということに他ならなかった。

 すると、

「この感じ……これってもしかして『魔法』? うん、そうだわ、間違いない。マナの波動を感じるもの」

 あれって感じでシャーリーが呟いた。
 透明な壁を手で触りはじめる。

「『魔法』だって? この透明な壁は『魔法』で作られてるのか?」

「十中八九そうだと思うわよ」

「『魔法』か。道理で理不尽な硬さをしているわけだ」

 さすがシャーリーは世界で唯一の職業『魔法使い』だな。
 俺にはさっぱり分からないけど、シャーリーはこの透明な壁が現在では失われた古代の秘術である『魔法』によるものだと感じ取ったらしい。

 そしてこの入り口を覆った透明な壁に行く手を阻まれている間に、俺たちは光り輝く高位存在に追いつかれてしまった。

「これってどう考えても、こいつが意図的に俺たちを閉じ込めてるよな?」

「はい、ケースケ様。強烈な戦意が向けられているのを感じます。ビシバシって感じです。これはもう、受けて立つしかないですね」

「そうね、アタシたちを逃がしてくれる気はなさそうだもんね」

「ねぇねぇ、とりあえず名前つけない? こいつの呼び名がないと不便だし。だからケイスケ、名前つけてよ?」

「俺がかよ? そうだな……人間の形をして神々しく光ってるから、人と神の中間的存在の『エンジェル』でどうだ? 無難に」

「『エンジェル』、いいと思います!」
「ほんと無難ね、別にいいけど!」
「じゃあ『エンジェル』で決まりね。作戦はどうするの?」

「この狭い屋内空間じゃシャーリーの極大殲滅魔法は使えない、天井が崩れてくる――どころかこの山が崩れかねないからな。ってわけで、いつも通りアイセルとサクラの2人で攻撃、シャーリーは俺の護衛を頼む」

「了解です! サクラ、行きますよ!」
「うん! 任せて!」

 俺の指示を受けて、アイセルとサクラが光り輝く人型の高位存在――『エンジェル』への攻撃を開始した!