「かなり保存状態がいいですね」

 左の壁沿いに注意深く先頭を進むアイセルが、軽く壁を撫でながら呟いた。

「多分だけど元々人が来ない場所だったのと、長い間、大岩で入り口が塞がれていたから雨風に浸食されなかったからでしょうね」

「岩が入り口を塞いでいたおかげで内部が綺麗に保たれたというわけですね。なるほどです」

「俺としては、天井の隙間からところどころ差し込んでくる光で暗くないのもラッキーだな」

 なにせ暗さにも滅法弱いのがバッファーなので。

「それもおそらく設計者は計算づくよ。光の差し込む場所が等間隔でこの広間全体が明るくなっているでしょ? 偶然光が差し込んでいるんじゃなくて、完全に計算して外の光を取り込んで明かり取りをしているんだわ」

「マジかよ……すごすぎだろ古代文明」

「まったくです」

「でもその割には、一番奥に祭壇がある以外は何もないよな。がらんどうだ」

「ないですね」
「ないわね」

「どこかに隠し通路でもあるのかな?」

「ないとは言い切れないけど、まず最初はあの目立つ祭壇の周りを調べてみるのがいいんじゃないかしら」

「それもそうだな。ちなみに祭ってるものの系統に当たりはついてるか?」

「うーん、そうねぇ……これっていう確証はまだないわね」

「確証はない、ってことはある程度は分かってるってことか?」

「おそらくは何らかの神様を祭っているわね。壁に刻まれている縄文なんだけど、古代神性文字にどことなく似ている気がするから。もしかしたらこの縄目模様が、古代神性文字の元になったのかも」

「つまり古代神性文字が使われていた時代より、さらに昔の超古代・先史文明時代の神様って訳か。なるほど、ここまでくると壮大過ぎて想像もつかないな」

「実を言うとわたしもです。しかもそんな大昔にこれだけの神殿を、こんな僻地に作る技術力まであるんですから驚きですよね」

「まったくだな」

 そんな話をしながら俺たちは広間を進み、突き当たりにある祭壇までたどり着いた。

「さてと。何かあるとしたらこの祭壇の近くが一番可能性が高いと思うから、早速調べてみましょう」

「じゃあサクラ。俺たち3人で調べるから、その間周囲の警戒を頼めるか?」

「はーい! 任せて!」

 古代のロマンとかにさっぱり興味が無さそうで、会話にも全く参加してこなかったナウなヤングを生きるサクラに周囲の警戒を任せて、俺とアイセルとシャーリーは祭壇の周りを調べ始めた。

 こうやってパッと役割分担できるのがパーティの強みだよな。

 アイセルと2人だけだった最初の頃は、戦闘能力が皆無の俺がオトリをやったり、実質アイセルが一人で戦っているのを俺が後ろで眺めているだけだったりと、パーティって言うより寄せ集めの2人組って感じだったもんな。

 あの頃と違って、戦力が充実した今は本当にパーティらしくなった――なんてことをしみじみと考えていると、

『我が力を受け継ぎし、高みを目指す愛しき我が子らよ──』

 ふと、そんな声が聞こえた気がした。

「ん? 誰かなにか言ったか?」

 俺は祭壇の奥の壁の模様を指でなぞる手を止めると、みんなに視線を向けた。

「ううん、アタシは何も言ってないわよ?」

「私も言ってないよ!」

「わたしはケースケ様が独り言でも言ったのかなと思ったんですけど」

「……俺も何も言ってないぞ」

 一瞬顔を見あわせた後、俺たちの間に過去一番の猛烈な緊張が走った。

 即座にアイセルが抜刀して感覚を研ぎ澄ませ、サクラもバトルアックスを両手で構えながらバーサーカーの力を最大まで解放する。

「S級スキル『天使の加護――エンジェリック・レイヤー』発動」

 俺もいつものバフスキルを発動し、シャーリーも俺を守るように身体を寄せてきながら愛用の杖を構えた。

 緊張感を帯びた静寂が古代神殿遺跡に張りつめる。

『我が力を受け継ぎし、高みを目指す愛しき我が子らよ──』

 そして再びその声が聞こえたかと思うと、

「──っ! ケースケ様、祭壇が光っています!」

 アイセルが叫んだ時には祭壇が煌々たる白銀の光に覆い尽くされていて――、

『さぁ愛しき我が子らよ、その力をとくと我に見せるがよい――!』

 その言葉とともに、俺たちの前に人型をした光り輝く『何か』が降臨した――!