「超回復能力持ちのバーサーカーのサクラなら、ケースケ1人余分に背負っても何の問題もないでしょ? 結構いい考えだと思うんだけど」

 シャーリーの説明を、

「ちなみに中央都市ミストラルのいつもの武器防具屋さんに作ってもらった特注品なので、信頼性はバッチリですよ。テントの一部を利用するので荷物もほとんど増えませんし」

 アイセルが補足する。

「ケースケはほら、どうしても移動の時についていけないのが大きな弱点なわけでしょ? 前のパーティの時から、ケースケの弱点だった移動力を改善するために何かいい方法はないかなって、ずっと考えていたのよね」

「シャーリー……みんなも、俺のためにそんなことを考えてくれていたのか……」

 俺のパーティメンバーが最高にいい奴ばっかりな件に関して……。
 なのに昔の俺は周りがちっとも見えてなくて、シャーリーの気遣いとか俺への気持ちとかにまったく気づいていなかったんだな……。

「ほらほらケイスケ、何ぼーっとしてるのよ。はやく座って座って。ここからは私がおんぶして連れてってあげるから!」

「お、おう……でもさすがにそれはどうなのかなぁ」

「あれ、何か問題ある?」

「だって12歳の女の子に、重い荷物と一緒に背負われる20代後半の男だぞ? パーティ『アルケイン』のバッファーは、なぜか王様気取りで偉そうにメンバーをこき使ってるとか、良くない噂が広まりそうじゃないか?」

 ギルドマスターからパーハラ(パーティハラスメント、最近ギルドでちょっと問題になっている)で呼び出されそうだ。

「あははケイスケ、こんな山奥で変な噂流す人なんていないし! っていうか人がいないし! なんなら出発してから誰とも会ってないし!」

「まぁ熊やイノシシの方が圧倒的に多そうではあるけどな」

「あの、ケースケ様」

 俺がみんなの提案をやや渋っていると、アイセルが俺の目を覗き込むようにして言った。

「ん? どうした?」

「わたしをパーティに誘ってくれた時にケースケ様は言ってくれましたよね。パーティは支え合い、補うものうものなんだって」

「……確かに言ったな」

 あれはアイセルと出会ってすぐの、パーティ結成会議の時だ。
 
『パーティを組むってことは、そもそもお互いに足りないところを補い合うってことじゃないのかな?』
(注:第5話「パーティ結成会議(上)」参照)

 俺はそう言ってアイセルをパーティに誘ったのだ。

「今がまさにその時ではないでしょうか? 足りないところを補うためにパーティはあるんですから」

「アイセル……」

「あっ! えっと、あの、その……偉そうなこと言ってしまってすみませんでした!」

 俺が黙り込んだのを見て気分を害したとでも思ったのか、アイセルがガバッと勢い良く頭を下げる。

 でも今の間はそう言うんじゃないんだ。
 俺は本当に心の底からアイセルの言葉に感じ入ってしまったんだ。

「そうだよな、アイセルの言う通りだ。これは一本取られたよ。パーティは足りないところを補うためにある、まったくもってその通りだ」

「あ、はい!」

「アイセルは本当に一人前に成長したな。戦闘や冒険のスキルだけじゃなくて、人としての器がどんどんと大きくなってる」

 言いながら俺がアイセルの頭を優しくなでてあげると、アイセルは嬉しそうに目を細めた。

「だいたいこの作戦が使えるのも、元はと言えばケイスケが私がバーサーカーの力を微調整できるようになるまで、みっちり育成してくれたおかげなわけでしょ? だから私としても、ここはケイスケの役に立ちたいかなって思うな!」

「サクラ……お前もありがとな」

 俺の所属するパーティメンバーのみんなががみんな優しくていい子ばかりで、涙腺が緩んじゃいそうな今日この頃です……。

「じゃあ決まりね」

「ああお願いするよ。サクラ、ここからは頼んだぞ。実を言うとかなりきつかった」

「うん、任せて!」

 ってなわけで。

 本命の山登りを始める前に気力と体力の限界を迎えつつあった最不遇職バッファーの俺は。
 ここからはサクラの背負う巨大なリュックの上に取り付けられた特注のイスに座って、運搬されることになった。

「それにしてもめちゃくちゃ楽だな……」

 しかも疲れてるから寝てしまいそうだ。
 ダメだぞ、みんな歩いてるのに寝るのはさすがにマズい。

 でも規則正しい上下動が実に心地いいんだよなぁ……。

 はい、いつのまにかぐっすり寝てしまっておりました。
 なにぶん疲れておりましたので……。