こうして満を持して向かった最後のクエスト。

 まずは目的の山がある山岳地帯の麓にある町まで馬車で行き、そこで一泊してから俺たちは朝一でクエストをスタートした。

 本命の山にたどり着くために、まずは数日かけていくつか小さめの山を越えていかないといけないのだ。

 そして最初の夜、テントを立てて野営するにあたって早速ウンディーネからもらった『精霊結晶』を試してみたんだけど――、

「すごいです! 本当にお風呂に入ったみたいに、身体がスッキリ綺麗になりました! アンビリーバブルです!」

 アイセルが目を輝かせながら驚いていた。

 アイセルが子供のように喜ぶ姿を見るのが嬉しくて「バブルだけにアンビリーバブルってな」とか、つい寒すぎる一言を口走らなかった自分を自分で褒めてあげたい。

「アタシも『精霊結晶』を見るのは初めてなんだけど、伝説のマジックアイテムだけあってすごい効力ね。石鹸の香りまでしてきてるわよ? ほんと最高位精霊ともなるとなんでもありね」

 シャーリーも手に取った『精霊結晶』をしげしげと眺めながら驚嘆のため息をついている。

「うんうん! これなら野宿でも気持ちよく寝れそう! ありがとうウンディーネ! また今度お礼に行くね! ね、ケイスケ、またみんなで遊びに行こうよ?」

 サクラは遠く『精霊の泉』にいるであろうウンディーネに向かって感謝を口にしながら、子供らしくまた遊びに行こうとはしゃいでいた。

 三者三様、パーティのみんなが喜んでくれたようでなによりだ。

「ほんとすごい効果だよな。特に俺たち冒険者にとってはこんなに便利なアイテムはないよ」

「はい! ウンディーネさんには大感謝ですよ!」

 とまぁそんな感じで、ウンディーネの素敵なプレゼントもあって最後のクエストは上々の滑り出しだったんだけど――。


「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……くっ、うっ……」

「ふぅ……結構ハードだけどケースケは大丈夫? 少し休んだ方がよくない?」

 俺を労わるようにシャーリーが優しく聞いてくる。

「まだまだ大丈夫だ、問題ないさ」

「もう、ケースケってば張り切っちゃって。そんなんじゃすぐに果てちゃうわよ?」

 シャーリーの言うとおり、張り切り過ぎた俺は膝や腰がガクガクだった。
 なんかもう身体が重くて、このまま倒れ込んで寝てしまいたいくらいだ。

 でも俺も男だからな。
 好意を寄せてくれる女の子たちに、あまりカッコ悪いととろは見せたくないんだよ。

「まだまだやれるさ。ガンガン行くからな。シャーリーこそ俺より先に果てるなよ?」

「もうやせ我慢しちゃって……じゃあほら来て」

 シャーリーに優しく(いざな)われた俺は、

「ああ、言われなくとも。ふん、ふんっ、はっ、ふっ!」

 再び息を切らせながら力強く身体を動かし始めた。

「ふふっ、ケースケのそういう愚直で一生懸命なところ、アタシは好きよ」

「ありがとなシャーリー。よし、ちょっと復活してきた気がする。このまま最後までいくぞ」

「頑張ってね」

…………
……

「やっぱきついな……標高が高いからかこの辺りは空気が薄いんだよ……ぜぇ、はぁ……ぜぇ、はぁ……ぜぇ、ぜぇ……はぁ、はぁ……」

 ついに隣を歩いているシャーリーに俺は泣き言を言ってしまった。
 つまりどういうことかと言うと。

 まだ本命の山にたどり着く前の段階――麓の村を発ってから3日目の段階で、俺は完全にばててしまったのだった。

 歩くだけで息が上がり、身体中が筋肉痛で悲鳴を上げている。
 自分でも分かるほどに完全にバテバテだった。