「え、あ、うん……まぁほどほどにね? でないとケイスケが一生懸命アイセルさんの名前を売るためにやってきたことが、下手したら全部無駄になっちゃうから……」

 サクラは言動こそ子供っぽいし、特にケースケに対しては完全に心を許しているからか、かなり甘えた言動を取ることが多い。
 しかしいいところのお嬢さまだけあって幼いころより高度な教育を受けているため、サクラは割と空気が読めた。

 パーティの先輩であり尊敬する絶対エースでもあるアイセルの面目を保ちつつも、何でも言える仲良しケースケの努力も無駄にならないようにと、サクラはとても卒のない返事をしたのだが――。

「いいえ、わたしは真実をのみ書き記します。それでわたしの名声がどうなろうとも構いません」

「いや、あの、だからケイスケの今までの努力を……」

「世界の中心たる太陽のごときケースケ様の偉大さを後世に書き残すことができなければ、わたしは死んでも死に切れないでしょう」

「そこまでいくともう宗教みたいでちょっと怖いんだけど……」

 ケースケに対するアイセルの恋焦がれてやまない情熱的な想いの前では、空気が読めるサクラであってもドン引きを隠しきれなかった。
 さっきからどうにも顔が引きつり気味のサクラである。

 しかしケースケのことで頭も心もいっぱいなアイセルは、サクラの気持ちなんて知ったこっちゃなかった。

「宗教……はっ! そうですよ! それですよ! 実にいいアイデアですよ、それは!」

「ええっと、それって、どれ? なにがいいアイデアなの?」

「だから宗教ですよ宗教! ケースケ様教を作ればいいんです!」

 ついにとんでもないことを言い始めた。

「…………はい?」

 ここに来て、サクラはついにアイセルの話についていけなくなっていた。

「そうですよ、ケースケ様の素晴らしさを余すところなく伝えるための団体を作れば良かったんです」

「あ、アイセルさん……? なにを言って……」

「ああもう、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんでしょうか。まったく、まだまだわたしもケースケ様への愛が足りないということなのでしょうね。帰ったら反省会をしないと」

「あはは、冗談……だよね?」

「もうサクラってば、わたしはケースケ様絡みで冗談なんか言いませんよ。わたしはいついかなる時だってケースケ様に全力で本気なんですから」

「あ、うん……そうだよね……アイセルさんはいつもケイスケに本気だよね……でも時々本気すぎるっていうか……もう少し落ちついても罰は当たらないんじゃないかなって……」

「もうこんな時に落ちついてはいられませんよ。ではサクラ、すみませんがわたしは色々と考えることができてしまいましたので、今日のところはお先に失礼しますね。ではまた」

「あ、うん……ばいばい……」

 ケースケ教団を作るという新たなる使命に燃えるアイセルを、サクラは言葉少なに見送るしかできなかった。
 

 ちなみにアイセルのこの壮大な野望は、事態を大変憂慮したサクラによって秘密裏にケースケへと伝えられ、ケースケがアイセルに止めてもらうよう必死にお願いをすることでどうにか事なきを得たのだった。


 今日もパーティ『アルケイン』は平和なオフを過ごしていた。

~幕間終了~