暫くの間、談話室を離れていたのにも関わらず、二人の手は相変わらず結ばれたまま。姫が女の子に連れられて歩く姿に、見る者は微笑まずにはいられなかった。

 この心温まる光景がよく見かけるようになったのは、つい一週間前のことだ。それが風の噂で広まったことによって、他の患者たちやスタッフたちにも周知されるようになって、今となっては癒しの名物までになっていた。
 しかし、この穏やかな空気はある人物によって崩された。勝手に後ろに付いてきた人物にみおが振り返って、その顔面に指を突き付けたのだ。

「あー! お兄ちゃん。みおたちに付いてきちゃめー!」

「そんなあぁぁ! お兄ちゃんもみおちゃんと一緒に遊びたいのにぃ……」

 両手で顔を覆って、しくしくと嘘泣きを始めた亮。
 みおはそのあからさまな演技に一瞬戸惑い、姫の許可を確認するために彼女の方をちらっと見たが、無表情の姫からは何も読み取れるはずもなく。
 みおが悩むことに数秒後、「じゃあ」と切り出す。

「みおたちに変なことをしてこなければ付いてきても大丈夫!」

「ヨシ! お兄ちゃん、いい子にしまース!」

 満面の笑みに一転して、鼻歌交じりで意気揚々と二人に付いていく亮。
 彼のご満悦の様子に影響され、みおは楽しげな鼻歌のリズムに乗ってぶんぶん両手を振り回しながら廊下を進む。
 自分の手も振り回されることに、姫は特にこれといった反応を示すこともなく、ただみおに引っ張られるがままだけだった。