それから雅代は人員確保のために奔走していた。
しかし、精鋭組の使用人は自分の職に並ならぬプライドを持っている故に頭も固く、当初雅代も難航していた。だけど彼女は挫けることもなく、猛アタックしていく内に、一人、また一人の仲間を手に入れ、ちょっとずつ陣営が拡大していった。
その間に申請を済ませて正式に一姫のお嬢様付きメイドになったら、今度は華小路家のために奔走。
先代当主・一三氏の秘書と二人三脚で、華小路財閥の内部事情の処理や分家との牽制するようになった。
本来であれば、一使用人の出る幕ではないが、主がなき今、誰かが引き受かなきゃいけないことだ。
そのため、一姫の身の回りの世話は他人に任せる頻度も多くなり、夜遅くまで外出することも頻繁になり、主人のお顔を見れなかった日すらあった。
けれど、いずれも『次期当主である一姫の座を守る』に繋がるから仕方がない。今は耐え忍ぶ時だ。
雅代はそう自分に言い聞かせて、肌身離さず持ち歩いていた一姫の写真を見ることで自身を保つようになった。
朝は一姫の世話をし、昼は華小路家のために奔走し、夜は経済やビジネスの勉強に励む。
そんな生活が続くうちに、あっという間に二年が経ち、一姫もようやくお嬢様学校に入学する頃。丁度、雅代もメイド長にまで出世した。
その日は、一日中雨が降っていた。
一姫の送迎を他の者に任せて、自分は新しく入ってきた使用人たちの研修の監修役を務めることになった。忙しなく業務をこなすうちに、いつの間にか夕食時を過ぎていた。だけど時間が過ぎても、一姫はまだ部屋から下りていない。
本来であれば、一姫を呼ぶのは雅代の役目ではあるが。彼女は時間通りになったら自主的に下りてくるタイプで、遅刻するのは考えられない。
――もしかしたらお嬢様に何かあったのかもしれない。
漠然とした不安を抱えて、雅代は一姫の寝室に訪れた。三度もドアを叩くも返事がない。それどころか、物音すら何一つもない。
この時点で既に嫌な予感しかしないが、メイドのトップに立つたる者、決して油断してはならない。彼女は心中で諫めると、努めて冷静な口調で告げた。
「失礼します」
身体の中で渦巻いている胸騒ぎが大きくなったと同時に、ドアノブを握る。
自身を落ち着かせるために深呼吸してから、ゆっくりとドアを開けると、そこに広がる光景に驚愕し、思わず息を呑んだ。
「――――ッ」
絨毯の上に気絶して倒れている一姫の身体には、薔薇の花が赤黒く咲いている。
見たこともない模様が彼女の身体を蝕んでいるような光景に理解が追い付かないまま、気絶した主人の元へと駆け寄った。
「お嬢様! 一姫お嬢様! 誰か――」
彼女の身に一体何かあったのか。そんな質問に支配されたまま、必死に救援を求める雅代。
もし、もっと早く気付いていれば。もし、もっとお嬢様のことを気にかけていれば。もし、傍にいれば――。
そんな後悔ばかりが雅代の心中に渦巻く中、華小路家が私有したプライベートヘリコプターの到着を今か今かと待ちわびた。
先代当主・一三氏が逝去され、当主の座が空席のまま、次期当主になるはずの一姫が正体不明の病気に侵され、気絶した。
立て続けに二つの事件に見舞われた華小路家は、再び混乱状態に陥った。
しかし、精鋭組の使用人は自分の職に並ならぬプライドを持っている故に頭も固く、当初雅代も難航していた。だけど彼女は挫けることもなく、猛アタックしていく内に、一人、また一人の仲間を手に入れ、ちょっとずつ陣営が拡大していった。
その間に申請を済ませて正式に一姫のお嬢様付きメイドになったら、今度は華小路家のために奔走。
先代当主・一三氏の秘書と二人三脚で、華小路財閥の内部事情の処理や分家との牽制するようになった。
本来であれば、一使用人の出る幕ではないが、主がなき今、誰かが引き受かなきゃいけないことだ。
そのため、一姫の身の回りの世話は他人に任せる頻度も多くなり、夜遅くまで外出することも頻繁になり、主人のお顔を見れなかった日すらあった。
けれど、いずれも『次期当主である一姫の座を守る』に繋がるから仕方がない。今は耐え忍ぶ時だ。
雅代はそう自分に言い聞かせて、肌身離さず持ち歩いていた一姫の写真を見ることで自身を保つようになった。
朝は一姫の世話をし、昼は華小路家のために奔走し、夜は経済やビジネスの勉強に励む。
そんな生活が続くうちに、あっという間に二年が経ち、一姫もようやくお嬢様学校に入学する頃。丁度、雅代もメイド長にまで出世した。
その日は、一日中雨が降っていた。
一姫の送迎を他の者に任せて、自分は新しく入ってきた使用人たちの研修の監修役を務めることになった。忙しなく業務をこなすうちに、いつの間にか夕食時を過ぎていた。だけど時間が過ぎても、一姫はまだ部屋から下りていない。
本来であれば、一姫を呼ぶのは雅代の役目ではあるが。彼女は時間通りになったら自主的に下りてくるタイプで、遅刻するのは考えられない。
――もしかしたらお嬢様に何かあったのかもしれない。
漠然とした不安を抱えて、雅代は一姫の寝室に訪れた。三度もドアを叩くも返事がない。それどころか、物音すら何一つもない。
この時点で既に嫌な予感しかしないが、メイドのトップに立つたる者、決して油断してはならない。彼女は心中で諫めると、努めて冷静な口調で告げた。
「失礼します」
身体の中で渦巻いている胸騒ぎが大きくなったと同時に、ドアノブを握る。
自身を落ち着かせるために深呼吸してから、ゆっくりとドアを開けると、そこに広がる光景に驚愕し、思わず息を呑んだ。
「――――ッ」
絨毯の上に気絶して倒れている一姫の身体には、薔薇の花が赤黒く咲いている。
見たこともない模様が彼女の身体を蝕んでいるような光景に理解が追い付かないまま、気絶した主人の元へと駆け寄った。
「お嬢様! 一姫お嬢様! 誰か――」
彼女の身に一体何かあったのか。そんな質問に支配されたまま、必死に救援を求める雅代。
もし、もっと早く気付いていれば。もし、もっとお嬢様のことを気にかけていれば。もし、傍にいれば――。
そんな後悔ばかりが雅代の心中に渦巻く中、華小路家が私有したプライベートヘリコプターの到着を今か今かと待ちわびた。
先代当主・一三氏が逝去され、当主の座が空席のまま、次期当主になるはずの一姫が正体不明の病気に侵され、気絶した。
立て続けに二つの事件に見舞われた華小路家は、再び混乱状態に陥った。