こうして、鶴喜亮による、鶴喜亮のための『運命の人を探そうの旅』の幕が上がった。
つまらないベッド生活から解放された彼の勢いは、まさしく長い間監禁された野生動物が檻から解き放たれたかのよう。
「うひょおおおおお! カモンベイビイイィィィイイ!」
絶好調の彼の前に立ちはだかる障害物なんて、何一つもない。ルート上にいる人々が巻き込まれないように、勝手に逃げっていくからだ。
そのため、『廊下中をフルスピードで漕ぎ回る』という男子ならではの憧れはあっさりと叶えることができたというわけだ。
「きぃぃぃんもチィィィイイイイイイイイ」
何の臆面もなく、ここまで常識外れな行動をできる田舎者は、恐らく彼一人だけだろう。何より、この行為自体が『普通に迷惑』だという認識が持っていないから困ったものだ。
「うわっ。ってなんだ。またあの変な……」
周囲の人々は彼の勢いに驚きながらも、彼だと分かった途端、それぞれの仕事や用事に戻っていった。大半の医療関係者や患者は彼を避けるようにしていたのは、どうせ注意しても聞かないと知っていたからだ。
ふと、ルート上に一人の少女が現れた。
「――――え」
亮の突進に驚きのあまりに、両眼をまん丸くしてその場で硬直して、身動きの一つも取れなくなってしまったようだ。
「まずいッ!」
彼は全力でブレーキをかけて、辛うじて急停止できたものの、逆にその反動で車椅子から勢いよく飛び出した。
「ばどぇぶ」
奇声と共に不格好なダブルピースで少女の前でへたり込んだ彼に、彼女はどう声を掛けたらいいか分からず、三秒の間が経過。
やがて相手が勇気を振り絞って、突っ伏している亮に恐る恐る声を掛ける。
「……あ、あの。だ、大丈夫ですか」
「ご覧の通り、私は両足を骨折していて、一人では起き上がれない身ではありますが大丈夫! モォーマンタイ!」
「……その状態でまだ大丈夫と言える貴方もすごいわね。この子を起こして、雅代。私は車椅子を取ってくるわ」
「承知致しました、お嬢様」とメイドは長い黒髪を翻して主人の指示に従う。
二人は少し苦戦したものの、なんとか彼を車椅子に座らせることに成功した。
「すみません、お嬢さん方。お怪我はありま――」
少女の顔を見上げたその瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃が身体中を駆け巡った。見るものを惹きつけるような碧い双眸の前に、彼は言葉を失ったのだ。
窓から差し込む陽光が丁度少女の白髪に当たり、より一層輝いて見えた。
髪も肌も唇も、何もかもが薄い。触れてしまえば、はらはらと散ってしまいそうな、そんな危うさも兼ね備えて。
けれど、その端正な顔に感情らしいものが見当たらず、硬質に引き締まっている。まるで、笑顔をとうの昔に忘れてしまったかのように。
せっかくの美貌なのに勿体ない、と彼は思った。
「お嬢様、少し急いだ方が」
「……そうね。ごめんなさい」
彼女の声で亮はハッとした。
「おっと、私としたことが惚けてしまうなんて! お怪我はありませんか、お嬢さん? ここで会ったのも何かの縁! どうです? これから一緒にご食事でも……。あれ?」
しかし、彼の声は空虚に響くだけで、少女と従者は既にその場からいなくなっていた。
「おふ、この私をスルーするなんて酷イ!」
無視されることに余程衝撃的だったみたいに、亮は項垂れた。が、すぐに顔を上げた。赤瞳の奥に闘志の火を燃やしながら、得意気な笑顔を広げて力いっぱいに言う。
「でも……だからこそ、燃えル!」
つまらないベッド生活から解放された彼の勢いは、まさしく長い間監禁された野生動物が檻から解き放たれたかのよう。
「うひょおおおおお! カモンベイビイイィィィイイ!」
絶好調の彼の前に立ちはだかる障害物なんて、何一つもない。ルート上にいる人々が巻き込まれないように、勝手に逃げっていくからだ。
そのため、『廊下中をフルスピードで漕ぎ回る』という男子ならではの憧れはあっさりと叶えることができたというわけだ。
「きぃぃぃんもチィィィイイイイイイイイ」
何の臆面もなく、ここまで常識外れな行動をできる田舎者は、恐らく彼一人だけだろう。何より、この行為自体が『普通に迷惑』だという認識が持っていないから困ったものだ。
「うわっ。ってなんだ。またあの変な……」
周囲の人々は彼の勢いに驚きながらも、彼だと分かった途端、それぞれの仕事や用事に戻っていった。大半の医療関係者や患者は彼を避けるようにしていたのは、どうせ注意しても聞かないと知っていたからだ。
ふと、ルート上に一人の少女が現れた。
「――――え」
亮の突進に驚きのあまりに、両眼をまん丸くしてその場で硬直して、身動きの一つも取れなくなってしまったようだ。
「まずいッ!」
彼は全力でブレーキをかけて、辛うじて急停止できたものの、逆にその反動で車椅子から勢いよく飛び出した。
「ばどぇぶ」
奇声と共に不格好なダブルピースで少女の前でへたり込んだ彼に、彼女はどう声を掛けたらいいか分からず、三秒の間が経過。
やがて相手が勇気を振り絞って、突っ伏している亮に恐る恐る声を掛ける。
「……あ、あの。だ、大丈夫ですか」
「ご覧の通り、私は両足を骨折していて、一人では起き上がれない身ではありますが大丈夫! モォーマンタイ!」
「……その状態でまだ大丈夫と言える貴方もすごいわね。この子を起こして、雅代。私は車椅子を取ってくるわ」
「承知致しました、お嬢様」とメイドは長い黒髪を翻して主人の指示に従う。
二人は少し苦戦したものの、なんとか彼を車椅子に座らせることに成功した。
「すみません、お嬢さん方。お怪我はありま――」
少女の顔を見上げたその瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃が身体中を駆け巡った。見るものを惹きつけるような碧い双眸の前に、彼は言葉を失ったのだ。
窓から差し込む陽光が丁度少女の白髪に当たり、より一層輝いて見えた。
髪も肌も唇も、何もかもが薄い。触れてしまえば、はらはらと散ってしまいそうな、そんな危うさも兼ね備えて。
けれど、その端正な顔に感情らしいものが見当たらず、硬質に引き締まっている。まるで、笑顔をとうの昔に忘れてしまったかのように。
せっかくの美貌なのに勿体ない、と彼は思った。
「お嬢様、少し急いだ方が」
「……そうね。ごめんなさい」
彼女の声で亮はハッとした。
「おっと、私としたことが惚けてしまうなんて! お怪我はありませんか、お嬢さん? ここで会ったのも何かの縁! どうです? これから一緒にご食事でも……。あれ?」
しかし、彼の声は空虚に響くだけで、少女と従者は既にその場からいなくなっていた。
「おふ、この私をスルーするなんて酷イ!」
無視されることに余程衝撃的だったみたいに、亮は項垂れた。が、すぐに顔を上げた。赤瞳の奥に闘志の火を燃やしながら、得意気な笑顔を広げて力いっぱいに言う。
「でも……だからこそ、燃えル!」