目撃情報を基に探すと、あっさりと目当ての人物を発見。
 その人物が車椅子を漕ぎながら一方的に美人と話し込んでいるため、女の子の尾行に全く気付いていない様子。
 一方、女の子は相手の美貌に驚き、思わず立ち止まってしまったほど。

――うわ、なんて綺麗な人……。
 腰に届くほどの白髪が印象的な儚い美人。
 彼女が同性相手にここまで見惚れるのは実は初めてで。不思議なことに、その美人に一切嫉妬心が芽生えず、ただ純粋に彼女の美しさに心が奪われただけである。

 暫くすると、女の子はハッと我に返り、今は見惚れている場合ではないと悟り。早く美人(お姉様)を助けないと、と髪を振り乱し。満身の力を込めた拳を振り上げ、彼に向かって叫んだ。

美人(お姉様)に近付かないでください! この、バカ兄さぁぁぁぁーーーん」

 亮はその声に振り向くと同時に、見事に顔面にクリーンヒット。

「グホォォッ」

 細身から出たと思えないほどの怪力に車椅子ごとぶっ飛ばされ、ぐるぐると回転して地面に突っ伏した。舌を噛んだ激痛に亮は涙目になりながら、ぷるぷる震える腕でなんとか身体を支え、襲撃者を見上げる。

「わ、我が愛しき妹、梨衣(りえ)よ……。な、何故ここに……」

「兄さんの見舞いに来たに決まってるじゃないですか! すみません、兄さんがご迷惑をお掛けしました! ほら、部屋に戻りますよ」

 梨衣(りえ)がさっさと姫に謝罪して、ぐったりとした亮を車椅子に座らせた。流れる水のような一連の動きが、彼の尻拭いに慣れていたことを物語っている。

「イヤだ! もっと姫と話がしたい! おぅ、妹よ、いつの間にこんなに力持ちに……。姫、ヒメェェェエエエ!!」

 亮の叫びが完全にフェードアウトするまで、姫と雅代は二人の背中を見送り続けた。
――兄妹揃って、まるで嵐のような人たちだ。
 そんな感想がぼんやりと姫の脳裏をかすめる。

「……妹さん、すごいわね」

「さすが、あの下郎の妹って感じでございますね。……真似しないでくださいね」

「……真似したくてもできないよ。あれは」

 彼女は口でそう言いつつも、二人が消えた方向に羨ましそうに見つめるのであった。