「あー、終わった。卒業するのにまだ小テスト見直しさせて提出するとかありえない」

からん、とシャーペンを投げ出した芽衣が机に突っ伏す。だらんと伸び切ったかと思いきや、バネ仕掛けのように反動で勢いよくそっくり返って伸びをした。

「そりゃあ先生も見るに見かねたんでしょ」

授業中に返却された芽衣の点数は、なかなかの綱渡りだった。自慢げに見せてくるのでどんな快挙かと期待した千結だが、点数を見て「お、おう……」と弱々しいサムズアップを返すことしかできなかった。卒業間近とはいえ、あれを見過ごせる教師はなかなかいないだろう。担任の苦虫を噛み潰したような顔が思い出される。
千結も暇つぶしにペンを走らせていたネコの落書きを切り上げた。メモ帳をくしゃりと握り潰すとゴミ箱に放る。

「あれ、捨てちゃうの。可愛かったのに」

プリントに集中していたかと思いきや、芽衣は落書きを見ていたらしい。

「落書きだし。持ってても困るでしょ」
「千結って、そういうとこ潔いよねえ」
「そう?」

リュックを開けてペンケースを1番上に乗せる。筆記用具だけでなくハサミや糊などの文房具も入っているのでかさばるのだ。
しかし、かさばる荷物はこれだけではない。
スマホや財布などの貴重品はもちろん、コームや鏡、歯磨きセットの入ったポーチにモバイルバッテリーを入れたソフトケース、入れっぱなしの折り畳み傘、手帳、お菓子、タオル、常備薬……列挙していけばキリがない荷物が千結の大きなリュックには詰まっている。
きちんと整頓して収納しているので見苦しくはないものの、重さは確実に大荷物の分だけずしりと肩にのしかかる。
それでも千結はこの三年間、このリュックでやってきたのだから物持ちは良い方だろう。

芽衣も片付けを終えて椅子の位置を直すと、リュックを片方だけ肩にかけた。手に持ったプリントは早くも皺になっている。

小テストの再提出を言いつけられた芽衣に付き合っている間に、放課後特有の音が教室にわさわさと入り込んできていた。
生徒も教師もいない放課後の教室は静かだけれど、廊下やグラウンドからの音をすべて受け入れてしまうせいで、授業中よりうるさいと感じることもある。
やはり入るからといって、何でもかんでもしまいこむのは重たくなるばかりだなあとそれらしいことを思いながら、千結は芽衣と職員室へ向かった。