公園で、俺は鈴谷と向かい合っていた。
「瑠衣ちゃん、人違いをしたら謝らなきゃいけないんだよ、教わらなかった?」
 少し怖気付いて目が泳いでいる俺を、鈴谷はニコニコと笑って眺めていた。
「楓は?」
「どこにいるんだろうね?」
鈴谷は俺の質問を笑って受け流す。
「何言ってんの、楓、あんたと一緒に学校戻ったよね」
「なに、さっきから楓、楓って。そんなに楓ちゃんのこと大事?」
「大事だよ」
「なんで?」
なんで、とは。
「え、だって、友達は大事でしょ?」
「そっかぁ、瑠衣ちゃんもそんな感覚があったんだね」
「は?」
「せっかく噂流して瑠衣ちゃんだけが浮くようにしたのに、あの子、瑠衣ちゃんと関わるからさ。
《お仕置き》しちゃったよ」
ニコニコしながら恐ろしいことを言う鈴谷を見て、俺は背中の方から冷たい何かが這い上がってくるような感覚を憶えた。初夏だというのに、鳥肌が立つのが分かった。
ガタン、と大きな音を立てて俺は椅子から立ち上がった。
「楓は何処?」
「わぁ、瑠衣ちゃんが怒った、怒ると怖いんだね」
尚もニコニコしている鈴谷を見て、頭の中心が冷えていくような気がした。
鈴谷の胸ぐらを掴むと、俺はもう一度問いかけた。
「楓は、何処だ」
鈴谷の顔から笑顔が消えた。
目が微かに泳いだ。
「校舎、一階。その辺の何処かにいるんじゃないの」
俺は鈴谷を離すと、奴の横をすり抜けて歩き去った。
俺の心の中とはあまりにも不釣り合いな、鮮やかなモンキチョウが目の前を横切っていった。

    *     *    *

西日が差し込む校舎の中で、私はいつの間にか眠ってしまったらしい。
目を開けると、瑠衣が少し困ったような顔をして私の顔を覗き込むようにしゃがんでいた。
「あ、起きた」
「え、わ、わーっ!え、なんで」
思いっきり混乱する私に、瑠衣はあからさまに顔を顰めると、
「なんだ、鈴谷にお仕置きされたっていうから、どんなに酷いだろうと思ったら元気じゃん、良かった」
「なんで居るの⁉︎」
「なんでって...探しにきた」
「ふーん、てか私、元気に見える?結構殴られたんだけど」
「叫ぶ元気があるだけマシじゃねぇのか」
いつものように軽口を叩き合ってから、私はゆっくり立ち上がった。
「ごめん、待たせて。帰ろっか」
「応、楓のせいで25分無駄にしたからな」
「私のせいじゃないでしょ⁉︎」
「うわ怖、ごめんなさい」
「悪かったなぁ怖くて」
 瑠衣と話しながら校門に向かった。
 葵ちゃんたちは、あの後帰ってしまったらしく、どこにも見当たらない。
「ねぇ、瑠衣さ」
「ん?」
「なんで私があそこにいるって分かったの?」
 校舎を出てから、というか瑠衣に発見されてからずっと疑問だった。
「なんでって」
 瑠衣は当たり前だというように続けた。
「鈴谷を脅して、大体の場所を聞いたに決まってるだろ」
 決まってはないと思うけど。
「香織ちゃん、怖がってたの、瑠衣のこと?」
 私は驚いた。
 いつも葵ちゃんや香織ちゃんはニコニコしていて、何かを問い詰められてものらりくらりと躱していく人に見えていたから、瑠衣の脅しで私のいる場所を話すなんて、想像できなかった。瑠衣が相当怖かったのかもしれないけど。
「怖がってた...んじゃないか?」
「へ?」
「鈴谷が、俺のこと。お前いま自分で聞いてたじゃねぇか」
「あ、そうだった。で、『じゃないか』って、なにその自信なさげな表現?」
「いや、何ていうか、俺あの時頭に血が上ってたみたいでさ、あんまり覚えてないんだよな」
「嘘でしょ、記憶飛ぶことなんてあるの?」
「あるんだな、覚えてないもん」
 少し困ったような顔をした瑠衣に、私は続けて聞いた。
「で、なんで記憶が飛ぶほど頭に血が上ったのよ」
「え」
 瑠衣の表情が固まるのが分かった。
「どした?」
 何かまずいこと聞いただろうか。
「あれ、なんでだ?」
 瑠衣がハテナ顔で此方を見た。
 こっちが聞きたい。
「何でだって、あんたのことは私には分かんないよ」
「うーん、そうなんだけども...ウーン...」
 瑠衣はひたすら口の中でもごもごと何か言っている。
 どうやら本当に分からないらしい。
 まぁ良いや、と言って瑠衣と並んで帰り道を歩き始めた。
「お腹すいたー」
 急に話を変えた私に、瑠衣は相当ビックリしたらしい。え⁉︎と必要以上に大きな声を出して、その後少し笑って、俺も、と呟いた。