放課後、俺は楓と並んで校門を出るところだった。
「楓ちゃん」
 振り返ると、圦里が立っていた。
「なに?」
 楓が明るく答えたものの、少し表情が強張っている。
「ちょっと楓ちゃんと話したいんだけどさ、瑠衣ちゃん、良い?」
 なんで俺に聞くんだ。
「良いけど...?」
「良かったっ、じゃあさ、楓ちゃん、ちょっとあっちで」
「え、うん」
 圦里は、楓の手を引っ張って校舎の方に逆戻りしていった。
 俺、どうすれば良い?
 なんか置いてかれたぞ。
 とりあえず校門でずっと突っ立っている訳にもいかず、近くの公園のベンチで時間を潰すことにした。
 学校の図書室で借りた文庫本を開いて待っていたのだが、10分経っても戻ってこない。どんな話をしているのか見当もつかないが、こんなにかかるものなのか?たかが立ち話に。

 不思議なものだ。
 楓が隣にいないと、なんかつまらない。体の一部がなくなっちゃったみたいな、物足りなさというか、漠然とした不安みたいなものがあるのだ。
 何故かはわからないが、なんとなく、楓がいないと不安だった。

 もう5分待って来なかったら帰るか。
そう思った矢先、俺は前に気配を感じて顔を上げた。
「楓、お前おそ」
 遅い と良いかけて口をつぐんだ。
 目を見開いた。
「瑠衣ちゃん、人違いをしたら謝らなきゃいけないんだよ、教わらなかった?」

 鈴谷が立っていた。

    *     *    *

 目を開けた。
 西日が差し込む校舎の廊下で、私は壁にもたれかかって座り込んでいた。
 ゆっくりと立ちあがろうとして声を上げた。
「いっ...」
 肋が痛み、頭が痛み、鳩尾が痛む。
 えっと、私、どうしたんだっけ。
 そうだ、葵ちゃんに校舎の中に呼ばれて、ついていったら、葵ちゃんと仲が良い女の子が2人(内1人は香織ちゃんだったと思う)居て、葵ちゃんも含めた3人に色々質問されたんだ。
「なんで瑠衣ちゃんと関わるの?」
「あの子二重人格者なのにわざわざ話しかけなくても良くない?」
「偽善者にでもなりたいの?」
とか、その他諸々。
 ムカついて抵抗したら、
 殴られたのだ。
 あぁ、他人に暴力振るわれたの、久しぶりだな。
 小さい時に母に殴られたり、小学校でいじめに遭っていた時に叩かれたり石を投げられたりしたけど、中学に上がってからはなかった。
 虚ろな目を天井に向けると、西日がより一層明るく見えて、私は目を細めた。
 そういえば、瑠衣、待たせたままなんだっけ。戻ったら謝んないとな。
 彼奴と会ってから、私はちょっと変わったかもしれない。
 前は、とにかく波を立てないように、目立たないように、「普通」に隠れて生活していた。葵ちゃんみたいな、ちょっと怖い人たちに目をつけられないように。
 でも今は、自分の言いたいことをちゃんと言えるようになった。
 クラスで孤立しても、不思議と怖くなかった。
 不思議なもんだな。
「彼奴のお陰かな」
 1人で、廊下で。西日の差し込む中で、
少し笑った。