家に帰った私は、自分の部屋で漫画を読んでいたけど、中身が全然頭に入ってこない。
そうしているうちに夕方になって、お風呂に入って夕飯を取って、後は寝るだけ。
明日は大事な卒業式だから、早目に寝た方がいいって分かっているんだけど、そんな気にもなれなくて。
椅子に腰掛けながら、スマホをいじっている。

と言っても、別に調べたいことがあるとか、見たい動画があるとかじゃない。
大して興味もないネット記事を適当に眺めながら、大きなため息をついた。

なんでこんなに、スッキリしないんだろう?
原因はハッキリとは分からないけど、辰喜が関わっているのは、間違いないと思う。
だって学校で別れてからずっと、アイツの顔が頭から離れないんだもん。

親友が引っ越して行っちゃうのが、寂しいってだけじゃないと思う。
もちろん寂しいとか悲しいとかいう気持ちもあるけど、それだけじゃなくて、辰喜のことを考えていると変にドキドキするし、胸が締め付けられるような気持ちになる。
こんなの、まるで漫画に出てくる恋する乙女じゃん。だけど、そんなのおかしい。
私は、辰喜のこと振ってるんだもの……。

去年のバレンタインの日、私が辰喜に告白したというのなら話は分かる。だけど実際は逆だ。私が告白されて、それを断ったのだ。

あの時、辰喜とはこれからも友達でいたいって願ったけど私は今でもちゃんと、いい友達でいられているのかな?
そして余計に悶々とさせているのが、烏丸くんに告白された後に、辰喜が言ってた言葉。
もしも私が誰かと付き合ったら、応援するって言ってたけど……それってもう私のことは、そういう風には見てないってことだよね。

告白したのなんて1年以上前の話だし、私も断ったんだからそれが普通。
だけど頭ではそうわかっていても……ああっ、モヤモヤするー! 

引っ越して離ればなれになるのに平気そうなこともムカつく。
私のことなんてもう好きじゃないから、離れても寂しくないのか!
私はこんなにも辰喜のことが──

するとその瞬間、手にしていたスマホが、音をたてて鳴りだした。

え、着信? いったい誰から……。

すると画面を見て、息が止まる。
だって表示されていた相手は、今の今苛立ちを募らせていた相手、辰喜だったのだから。

こんな時間に、いったい何の用だろう?
さっきまで考えていた事が頭をよぎって一瞬出るのを躊躇したけど、一呼吸置いた後に通話をタップした。

「も、もしもし辰喜?」
『彩……悪い、こんな時間に』

スマホを通して聞こえてくる、辰喜の声。だけどなんだか、緊張してるみたいに聞こえる。
いったいどうしたんだろうと思っていると、彼は告げてくる。

『あのさ、明日だけど……朝、迎えに行っても良い?』
「え? 別にいいけど」

何を言われるのかなってドキドキしてたのに、拍子抜け。と言うかそもそも。

「わざわざ迎えに来なくても、いっつも会ってるじゃん」

朝は毎日、二人で登校してるもんね。
別に待ち合わせしてるわけじゃないんだけど、私も辰喜も家を出る時間は似たようなもので、大抵途中で会って、一緒に登校してるんだけど。

『そうなんだけどさ。最後くらいは、ね』
「あーうん。それもそうだね。それで、何時くらいにくるの?」
『7時で良いかな』

7時か、それはまた随分早い。普段ならようやく朝食をとるくらいの時間じゃない。
でも…。
「わかった7時ね」

もしかしたら早い時間にも、何か意味があるのかもしれないし。何より少しでも多く辰喜と過ごせるんだもの。断る理由なんてないよ。

『じゃあ、明日迎えに行くから』

そう言われて通話は切れたけど、私しばらくの間スマホを握ったまま動けずにいた。

「明日、かぁ……」

明日でもう、中学校とはお別れ。
辰喜のこともあって、色んな思いが胸に込み上げてくる。

「卒業、したくないなあ……」

ポツリと漏らしたのは、紛れもない私の本音。
けど当然、そんなわけにはいかない。

辰喜が7時に迎えに来るなら、早目に起きて準備しておいた方がいいよね。
私は一旦部屋を出ると、お母さんに明日辰由が迎えに来ること、だから朝食を早目に取ることを伝えて、後はさっさと寝ることにした。