バレンタインの告白の衝撃は凄まじかったけど、それからの私達はビックリするくらいそれまで通り。
まるで告白なんて本当はなかったんじゃないかって思うくらい、辰喜も普通にしていたし、私もだんだんとそれに慣れていってしまっていた。


きっとこれで良かったんだ。
下手にカレカノになんてなるより、友達でいた方がずっと気楽で居心地がいいものね。

だから私も辰喜の態度に甘えて、相変わらず一緒に登下校するし、休みの日は二人で遊びに出かけることもある。そんな今までと何も変わらない毎日を送っていた。

ただ体育の授業中に走っている辰喜を見た時、国語の授業中に教科書を読む声を聞いた時不意に、不思議と胸を締め付けられるような感覚に襲われるようになったのだけど。
その事は誰にも言わずに、緩やかに時間は過ぎていく。

そうしているうちに3年生になって、もう進路についても考えなきゃいけない時期。といってもこんな田舎だと、選択肢は限られているんだけどね。
一部の人を除いては、片手で数えるほどしかない地元の高校のどこかに進学するだけ。もちろん受験勉強はしなくちゃだけど、いずれも難関校というわけじゃないし、自分の実力に見合った場所を選んで無難に進めばいいだけの話。それなりに緊張感はあるけど、たぶん都会の受験戦争ほど、ピリピリとはしていないと思う。

そして私は自分の進路について考えながら、何となく高校も、辰喜と一緒になるのかなーなんて思ってた。
一緒にいるのが当たり前で、成績だって似たようなもの。
高校に入っても同じように側にいて、話をしたり遊んだりする。そんな当たり前が、続くと思っていたけど……。


中学卒業と同時に、辰喜の家は県外に引っ越す。それを聞いたのは、暑い夏の日のこと。
真っ赤な夕日が西の空に沈む、夕暮れだった。

もうすぐ夏休みが始まるという頃、学校からの帰り道。
その日もいつも通り二人で、夏休みには何をしたいかとか、さすがに受験勉強があるから、去年みたいに遊べないだろうなとか、そんな話をしていたんだけど。
辰喜は唐突に、それを告げてきた。

「あのさ……俺、卒業と同時に、県外に引っ越すんだ。だからもう、この町にはいられないんだ」
「えっ……」

あまりに突然で、最初は何かの冗談かと思った。

「引っ越しって、嘘でしょ? だってそんな話、今まで一度も」
「ゴメン。いつか言わなきゃって思ってたけど、言えなかった」
「ゴメンって……」

何さそれ!
突然のカミングアウトに、悲しいとか寂しいとか、今まで黙っていたことに対する怒りとか、色んな気持ちが込み上げてきたけど、不思議とそれらを口にすることができない。

詳しく話を聞いてみると、お父さんの仕事の都合で引っ越さなきゃいけないそうで。そういえばこの町に越してきたのも、お父さんの仕事が理由だったっけ。
だけど親の事情で子供の都合なんてお構いなしに連れていかれるなんて、理不尽。
でも私達は、そんな親に養われているわけで。文句を言ったところで、決定を変えることはできない。私だって、それくらいは分かっている。

けどそれでも、辰喜が遠くに行っちゃうなんて信じられない。
辰喜は隣にいるのが当たり前で、これからもそれは変わらないって、信じていたのに……。

「引っ越し先って、そんなに遠くなの?」
「うん。簡単には、戻ってこれないと思う」
「そっか……」
「でも、これからも友達でしょ。今までと何も変わらないって」

辰喜はそう言って笑ってみせたけど、そんなわけあるか! 
だって今まで毎日顔を合わせていたのに、それができなくなるんだよ!
高校が別々になるくらいなら、今まで通りいられるって思っていたけど……そうだ、高校!

「受験はどうするのさ? 辰喜、K高校志望じゃなかったの?」
「ああ……実は、向こうの学校を受けるつもりなんだ。俺だけこっちに残るわけにも、いかないしね」
「……今までずっと、その事黙ってたんだ」
「それは、悪いって思ってる」

辰喜は申し訳なさそうに言ったけど、そんなどこか諦めたような感のある姿を見て、無性に胸がザワついた。

「辰喜は、それでいいの? この町から離れても?」
「……仕方がないだろ。俺がもっと大人なら、一人で残ることもできたかもしれないけどさ、実際親についていく以外の選択肢なんて無いんだから」

それはそうだけど……。
ああ、もう。何悟ったみたいに言ってんのさ。
大人じゃないならもっと駄々こねて、行きたくないくらい言いなよね。可愛い気のない。
私は、寂しいよ……。

今まで当たり前のようにいた存在が、いなくなるんだもん。寂しいに決まってる。
そして同時に苛立ちを覚えるのは、辰喜のこの素っ気ない態度のせい。
引っ越しは仕方がないのかもしれないけど、少しは嫌がったり、寂しくなるって態度で示してくれればいいのに、この全てを受け入れたみたいな態度。

辰喜はこのまま、離れちゃってもいいの? ちっとも寂しくないの?
だとしたら、なんて薄情なやつなんだ。
私達、親友じゃなかったの? 前に私のこと、好きって言ったくせに……。

それを振ったのは私なのに、勝手なことを思ってる自覚はある。
だけど全部受け入れて、しょうがないかって割りきってる風な辰喜を見ていると、行き場の無い思いばかりが募っていって、変になりそう。

するとうつ向きながらモヤモヤしてる私の頭を、辰喜がポンッと撫でてきた。

「そんな深く考えなくてもいいだろ。別に二度と会えなくなるわけじゃないし、電話したりメッセージ送ったりはできるんだから」
「そりゃあまあ、そうだけど……」
「それにまだ、半年以上先なんだからさ。中学の間は今まで通り、一緒にバカやっていこうよ」
「何言ってるの。私達受験生でしょ」
「それでもだよ。残りの時間を、目一杯楽しもう」

いや、受験勉強だってそれなりにしなきゃいけないんだから、そんな楽しめるか!
……って、この時は思ったけど。

それからというもの、私達は勉強をしつつも、別れを惜しむように全力でバカをやっていった。
小学生の頃と同じく、川で遊んでずぶ濡れになったり、文化祭が近づくとバンドを組んで、下手な演奏を披露したりもした。

もしかしたらそれは現実から目を背ける逃避だったのかもしれないけど、それでもバカやってる時だけは、今まで通りの私でいられた気がする。
その時間があまりに楽しくて、春になれば辰喜が行っちゃうってのが、益々信じられなくなったけど……。
そうしている間も、時間は容赦なく過ぎていく。
別れの時は確実に近づいているのに、私はそこから目を背けてしまっていた。