「え……」

 彼女のいたずらだろうか。しかし、冗談が得意ではない僕にこんなことを仕掛けるとは到底思えない。

 いなくなったのか?

 今になって、一週間一緒に過ごしてこんなあっさりとした別れはあんまりだ。

 僕は立ち上がり、夏希を探そうと振り返った。そこに、今度は夏希ではない女子が驚いた顔でこちらを見つめていた。

「本当にいた……」

 どうやら、目の前にいる女子は僕を探していたらしい。僕は彼女に見覚えがあった。

「君は確か夏季の」
「妹の五月です」

 五月さんは夏季によく似ていた。しかし、夏希ではない。

 申し訳無くも内心がっかりしながら五月さんに問う。

「僕を探していたんですか?」
「はい。そうだ、あの、もし予定が無いなら、私と一緒に来てもらえませんか!」

 急に大声を出されて後ずさりつつも、夏希がいなくなった今、僕に予定なんか無い。本当は探しに行きたいけれど、どこへ行ったところで姿が見えないのであれば──。

「お姉ちゃんが目を覚ましたんです!」
「夏希が……!?」

──どういうことだ!?

 僕は混乱して何も言えなくなってしまった。

 だって、夏希は今の今まで僕の横にいて、五日間幽霊として過ごしてきたのに。一週間前に余命を終えたはずなのに。

「とりあえず行きましょ!」
「わ、わぁぁ」

 腕を掴まれ、走らされる。最寄り駅に着く頃には息も絶え絶えだった。僕の方が年上で男子なのに。これは体ではなく、頭が疲れての息切れだ。多分。

 ホームで待っている十分で、だいぶ落ち着いてきた。電車が着て、また腕を掴まれて乗車する。出会ったばかりの男子の腕を無暗に掴むのはお止めください。

 僕は真っすぐ前を向いて座る五月さんに話しかけた。

「あの、夏希が目を覚ましたっていうのは、どういう」

「ごめんなさい、ちゃんと説明してなかったですね。お姉ちゃん、具合が急変して一週間前に転院したんですけど、ようやく目を覚ましたんですよ」

「転院、してたんだ……?」
「はい、実は」

 なんということだ。

 僕は最初から間違えていた。

 夏希は生きていたのだ。生きていた!

 嬉しい。夏希が生きている。

 それなら、さっきまでの夏希は意識だけが飛んでいたということか。

 もう何でもいい。夏希が生きているのなら、僕は何でも受け入れる。

「お母さんが類君にも知らせようって言ったんですけど、連絡先知らなかったから今になっちゃって。お姉ちゃんのこと心配してましたよね」

 返事をしない僕の顔を見上げてくる五月さんに、慌てて視線を合わせる。

「正直なところ、亡くなったと思っていました。ベッドも綺麗になってたし」
「ですよね、ごめんなさい」

「いや、五月さんたちの所為じゃないです! 僕も動転して病院から出ないで、看護師さんに確認を取ればよかったんです」

 そうだ。転院先は個人情報の関係で教えてもらえなかったかもしれないけど、僕がいつもお見舞いに来ていたことは知っているから転院したくらいは教えてもらえたはずだ。

 すっかり悲劇の主人公ぶって、しっかりと情報を集めていなかった。僕の責任だ。

 きっと、目が覚めたから幽霊の夏希が消えたのだろう。

 この電車を降りて病院に行けば、生きた夏希に会える。僕は急に緊張してきた。

「だ、大丈夫ですか?」

 胸を押さえた僕を心配して、五月さんは背中を軽く撫でてくれた。

「有難う御座います……夏希に会えると思ったら、嬉しくて緊張しちゃって」
「あはは。よかった」