「順番に見ていこうか」
「うん」
そんな会話をしてふと気が付いた。
これもデートということになるのか。夏希はここにいるわけだし。僕には視えるわけだし。
生きていた頃、あまりたデートらしいことは出来なかった。遠くに行って具合が悪くなったら大変だから。そもそも、常に具合は悪くて、たまに少し良い時があるくらいだったから。
きっと、こういうところにも、もっと沢山行きたかっただろうな。
「見て、ウサギ。私、ウサギ飼ってみたかったの」
そう言って、夏希がウサギの頭を優しく撫でた。ウサギも分かるのか、耳を後ろに倒して気持ち良さそうにしていた。
「かわいい」
「ね。もこもこ。これなら冬でも寒くなさそう」
「逆に夏は大変そう。夏生まれで暑い方が得意な私とは逆だ」
そういえば、冬になるとウサギよりもこもこに厚着していた。あれはあれで可愛かった。
『夏の季節に生まれたから夏季だって。安直過ぎない?』
『もしかしたら、夏の奇跡でなつきかもよ?』
『それじゃ漢字が違うじゃん!』
そう明るく笑っていた夏希が懐かしい。結局病気が治る奇跡は起きなかったけれども、こうして再会したのも奇跡と言えるかもしれない。
寒くて人のいない動物園はなんだか不思議な様相で、夏希の存在と相まって僕の心に深く沈んでいった。
お昼を園内で食べ、最後にパンダを堪能して帰宅した。
電車内ではまだ受験生らしき高校生がちらほらいる。一足早く自由の身になって勝手に申し訳なく思う。そういえば、第一志望の合格発表もうすぐだ。
隣でアイスを頬張る夏希を見つめる。そう、幽霊なはずなのに、アイスを食べている。どうやら僕の手から渡すと触れるらしい。何が何だかさっぱり分からない。
「このアイスってどう見えてるのかな」
「私も思った。浮遊するアイス?」
最後の一口が消える。このアイスはどこへ行ったのだろう。
「ごちそうさまでした。今日は楽しかったね、ありがとう」
「ううん。僕こそありがとう」
こうして横にいてくれるだけで感謝でいっぱいになる。
家に戻ってからすぐ床に寝転がった。ベッドまで辿り着かなかったのだ。一年間の勉強で培った学力と引き換えに失った体力は相当なものだったらしい。
どうにか自分の部屋には入れたので、いくら転がってても文句は言われないはず。
「大丈夫?」
「うん、疲れただけ」
夏希から体を心配されるのは初めてだ。
僕が目を瞑ると、横に夏希が座った。何も会話は無いけれども、心地良い時間が流れた。
もしも夏希がずっといてくれるなら、こんな風にこれからも過ごしていきたい。
「明日はどこ行こう」
「動物園行ってきたばっかなのに、もう明日の話?」
夏希が笑う。
だって、夏希がいる。夏希に見せたいものが沢山あるんだ。海に山、芸術、いっそ日本を飛び出して世界中を回りたい。
「海、行こっか」
「冬だよ!?」
僕の提案に夏希が大声を上げた。
それはそうだ。今は二月だ。気が狂ったと思われる。
「きっと、冬の海は澄んでると思うから」
ただ、夏希に太陽の光を浴びた海を見せたくなった。
「も~。でも、うん、いいね」
笑顔が眩しくて、理由は言えないまま準備をした。
夕食もお風呂の時も、僕はどこか上の空だった。
誰もいない海が楽しみで、その夜僕は遠足前の幼児のように眠れなかった。
「うん」
そんな会話をしてふと気が付いた。
これもデートということになるのか。夏希はここにいるわけだし。僕には視えるわけだし。
生きていた頃、あまりたデートらしいことは出来なかった。遠くに行って具合が悪くなったら大変だから。そもそも、常に具合は悪くて、たまに少し良い時があるくらいだったから。
きっと、こういうところにも、もっと沢山行きたかっただろうな。
「見て、ウサギ。私、ウサギ飼ってみたかったの」
そう言って、夏希がウサギの頭を優しく撫でた。ウサギも分かるのか、耳を後ろに倒して気持ち良さそうにしていた。
「かわいい」
「ね。もこもこ。これなら冬でも寒くなさそう」
「逆に夏は大変そう。夏生まれで暑い方が得意な私とは逆だ」
そういえば、冬になるとウサギよりもこもこに厚着していた。あれはあれで可愛かった。
『夏の季節に生まれたから夏季だって。安直過ぎない?』
『もしかしたら、夏の奇跡でなつきかもよ?』
『それじゃ漢字が違うじゃん!』
そう明るく笑っていた夏希が懐かしい。結局病気が治る奇跡は起きなかったけれども、こうして再会したのも奇跡と言えるかもしれない。
寒くて人のいない動物園はなんだか不思議な様相で、夏希の存在と相まって僕の心に深く沈んでいった。
お昼を園内で食べ、最後にパンダを堪能して帰宅した。
電車内ではまだ受験生らしき高校生がちらほらいる。一足早く自由の身になって勝手に申し訳なく思う。そういえば、第一志望の合格発表もうすぐだ。
隣でアイスを頬張る夏希を見つめる。そう、幽霊なはずなのに、アイスを食べている。どうやら僕の手から渡すと触れるらしい。何が何だかさっぱり分からない。
「このアイスってどう見えてるのかな」
「私も思った。浮遊するアイス?」
最後の一口が消える。このアイスはどこへ行ったのだろう。
「ごちそうさまでした。今日は楽しかったね、ありがとう」
「ううん。僕こそありがとう」
こうして横にいてくれるだけで感謝でいっぱいになる。
家に戻ってからすぐ床に寝転がった。ベッドまで辿り着かなかったのだ。一年間の勉強で培った学力と引き換えに失った体力は相当なものだったらしい。
どうにか自分の部屋には入れたので、いくら転がってても文句は言われないはず。
「大丈夫?」
「うん、疲れただけ」
夏希から体を心配されるのは初めてだ。
僕が目を瞑ると、横に夏希が座った。何も会話は無いけれども、心地良い時間が流れた。
もしも夏希がずっといてくれるなら、こんな風にこれからも過ごしていきたい。
「明日はどこ行こう」
「動物園行ってきたばっかなのに、もう明日の話?」
夏希が笑う。
だって、夏希がいる。夏希に見せたいものが沢山あるんだ。海に山、芸術、いっそ日本を飛び出して世界中を回りたい。
「海、行こっか」
「冬だよ!?」
僕の提案に夏希が大声を上げた。
それはそうだ。今は二月だ。気が狂ったと思われる。
「きっと、冬の海は澄んでると思うから」
ただ、夏希に太陽の光を浴びた海を見せたくなった。
「も~。でも、うん、いいね」
笑顔が眩しくて、理由は言えないまま準備をした。
夕食もお風呂の時も、僕はどこか上の空だった。
誰もいない海が楽しみで、その夜僕は遠足前の幼児のように眠れなかった。