おばあちゃんは思ったより元気で、来月には退院出来ると言っていた。僕は病院を出ても夏希のことで頭がいっぱいだった。

『どうしたんだよ? ばあちゃんの足、心配?』
『ううん、思ったより元気そうで安心した』

 夏希と会った時、拓海はちょうどトイレに行っていたから会っていない。会ったところで保育園が一緒じゃなかったのでつまらなかっただろう。

『拓海は家におばあちゃんいないから大変じゃない?』
『そんなことないよ。もう四年生だよ、一人で留守番くらい出来る』
『そっか、えらいね』

 僕の家はお母さんがいるから、留守番をしたとしてもほんの三十分だった。家に一人でいる拓海が大きく見えたものだ。

 おばあちゃんのお見舞いが終わり、僕は家で真剣に考えた。

 夏希は病気らしい。僕に何か出来ることはないだろうか。僕だってもう四年生だから。

 その日、手紙を書いて次の土曜日に届けに行った。夏希はそれを嬉しそうに受け取ってくれた。夏希は優しい子なんだ。

 それから僕は、月に四回お見舞いに行った。平日は遅くなると怒られるので、土曜日に。拓海のおばあさんはとっくに退院したけれども、夏希は四年生の春休みまで入院していた。



 夏希と同じ高校になり、二人の関係が変わった。仲の良い幼なじみから、恋人になった。関係は変わっても、二人は変わらなかった。

 この頃はまだ調子の良い日もあって、そんな日は病室まで迎えに行って登校した。

 初めこそ友だちに彼女と仲良しだなんてからかわれたが、いつしか当たり前の光景になって、夏希が登校出来た日は話しかけたりして気遣ってくれた。

 受験生の年になってから、夏希はまだ三度しか登校していない。そうして冬を迎えるというある日、余命宣告をされた。

 夏希は落ち着いていた。ついに来たとだけ言った。僕の心はそこに置いてけぼりになってしまった。

『ごめんね』
『なんで夏希が謝るの? それに、僕は諦めないから』
『……ありがと』

 僕の行き当たりばったりな言葉に、夏希は目を細めて答えた。

 幼稚な僕は励ましのつもりだったが、彼女にはどう見えていたのだろう。