以前クラリッサに、どうやって魔法を使っているのかと尋ねたことがある。
 その時彼女は考え込むように赤い瞳を虚空に向けた後で、ゆっくりと、しかし丁寧に説明してくれた。
 魔法とは、簡単に言うと目に見えない不思議な存在、精霊との契約によって生み出される力なのだという。
 精霊ごとに個別に定められている契約の手順を踏み、自身の力を媒体に強制的に履行させる。魔女の力が強い者ほど強い精霊と契約を結ぶことができ、それ相応の力を得ることができる。

「でも、力があっても相性って言うのがあってね。例えば氷の精霊と契約した魔女は、炎の精霊と契約を結ぶことは難しいの。契約の手順をきちんと踏むことができないって感じかな。もちろん、才能のある魔女なら相性の悪い精霊とも契約することが出来るんだけど、本当に稀なの」

 基本的には一人の魔女につき、一人の精霊と契約を結ぶ。精霊一人一人に得意なことが違うのだが、魔女の力の大きさによって引き出せる能力の幅が広がる。

「同じ氷の精霊と契約したとしても、力の弱い魔女は片手に乗る程度の氷を生み出すのが精いっぱいでも、強い魔女は一つの都市を凍り付かせることが出来るの」

 強い力ほど制御することが難しいのだが、魔女の力と制御の能力は決してイコールではない。強い力を制御しきれない魔女もおり、時々事故が起きていた。

「実は……リーデルシュタインを救った魔女も、力の制御がうまく出来ない未熟な魔女だったって聞いてるんだ……」

 魔女たちは、能力が暴発するかもしれない少女一人をリーデルシュタインの危機に向かわせたのだ。万が一力を制御しきれずに王都が炎に包まれたとしてもかまわないと思っていたのかもしれない。

(でも、当然よね)

 人々は、魔女とみれば誰彼構わず捕えた。片手に乗り切る程度の氷を作り出すことしかできない魔女であってもだ。その魔女が脅威となるかどうかなどどうでもよく、ただ魔女だからという理由だけで、何人もの命が奪われた。
 どんな経緯があってリーデルシュタインに手を差し伸べたのかは分からないが、彼女たちができる最大限の譲歩が、制御の不完全な少女だったのだろう。
 けれど少女は力を制御しきり、リーデルシュタインを救った。名乗ることもなく煙のように消えた彼女が、どんな気持ちだったのかは分からない。もしかしたら彼女も、親しい誰かを迫害により亡くしていたのかもしれないのだから。

「それで……こっちの魔女がどうやって魔法を使っているのかは分かったけれど、オウカはまた別の方法で魔法を使っているのよね?」
「うーん、実は私もちょっと聞いたくらいだから詳しくはないんだけどね」

 クラリッサはそう断ってから、内緒話でもするように声を潜めた。

「オウカの魔女は、精霊と会話ができるらしいの」