特別な客人が来たときに使われる食堂の中で、次々と目の前に供される食事に舌鼓を打つ。
 小さなグラスに入った爽やかなレモンの食前酒は、シャルロッテの物だけレモンジュースだった。スプーンに乗った一口サイズのおつまみを食べ、薄く切られた塩味の強い肉の乗ったトマトを食べる。続いてトロミの強いスープを胃に納め、ふっくらと焼きあがったパンを口に運ぶ。優しく甘い白身魚に柑橘系のシャーベットまでは、いつものリーデルシュタインの味だった。
 しかし、続いて目の前に出された肉料理には、見慣れないソースがかかっていた。
 普段ならば茶色のソースがかかっているはずのそこには、蜂蜜色に輝く何かがかかっていた。匂いを嗅げば、酸味の中にかすかに甘い香りを感じる。

「これが、マールグリッドの料理人から教わったっていうレシピか?」

 リーンハルトの問いに、クリストフェルが無言で頷く。躊躇する三人とは違い、その手はすでに肉を切り分け始めていた。
 見慣れない色合いと香りに一瞬だけたじろいだシャルロッテだったが、すぐにクリストフェルに倣って肉を切り分けると、大きく切った一切れを口に含んだ。
 最初に舌が感じたのは、強い渋みと苦みだった。しかしすぐに一瞬だけ強い酸味を感じた後で肉の濃厚な旨味が追いかけてきて渋みと苦みを包み込むと、蕩けるような甘さへと変わった。噛めば噛むほど甘みが舌の上に広がり、飲み込むのが勿体ないほどの美味しさで口内が満たされていく。
 喉を通り過ぎていく肉に名残惜しさを覚えながらも、すでに手は次の肉を切り分けていた。シャルロッテの意思に関係なく口が開いて、今しがた分けられたばかりの一切れを迎え入れる。
 見慣れない色彩に困惑していたアーチボルトとリーンハルトも、無心で次々と口へ放り込むシャルロッテの姿を見て食欲を刺激されたのか、恐る恐る小さく一切れを切り分けると口に放り込み、目を輝かせると飲み込んだ。
 カチャカチャとナイフとフォークが躍る音は、サラダが運ばれてくる前には鳴りやんでいた。食べなれたドレッシングのかかったみずみずしい生野菜を飲み込むと、シャルロッテがゆっくりと口を開いた。

「今まで食べたどんな肉料理よりも、美味しかったです。あのソースは泥桃……いえ、雷龍桃ですか?」

 部屋隅でジッと成り行きを見守っていた料理長が、シャルロッテの問いに驚いたように目を見開いた後で静かに頷いた。