「シャルロッテ様……何かお考えが?」

 パーシヴァルが驚きの表情を消し、鋭い眼差しでシャルロッテを見据える。
 リリィがいるこの場で、王の付き人であるパーシヴァルに魔女の懸念を告げて良いものか迷っていると、意外な人物が声を上げた。

「もしかして、お嬢様は鏡が気になっているんですか?」

 普段はふわふわしているように見えても、リリィはマンフレットの厳しい審査を合格してコルネリウス家のメイドになった人物だ。なかなかに目の付け所が良かった。
 パーシヴァルが考え込むように目を伏せ、ややあってから「なるほど」と低く呟くと小さく頷いた。おそらく、彼もシャルロッテが抱いた懸念について悟ったのだろう。

「良いでしょう。フォルミコーニ家には近いうちに顔を出す予定がありましたので、その時にシャルロッテ様もご一緒に……」
「駄目ですよ!」

 言葉を遮るように、リリィが大きな声を出す。
 左手を腰に当て、パーシヴァルの顔を覗き込むように彼の前に立ちふさがると、顔の前で人差し指を左右に振った。

「分かってないですねぇ、パーシヴァル様。お嬢様とパーシヴァル様が行ったところで、エリアス様が正直に“そうです、鏡の中の人と会話してるんです”なんで言うわけないじゃないですか。フォルミコーニ子爵や子爵夫人だって、素直に“息子がどうやら鏡の中の住人と会話しているようで”なんて言うはずがありません! 鏡の噂が本当でも嘘でも、二人がきいたところで“そんなのはただの噂です”って言われるに決まってるじゃないですか!」

 自信満々にそう言い切るリリィだったが、確かに言われてみれば彼女の意見も一理あった。
 ただの噂ならばフォルミコーニ家の者は誰だって否定するだろうし、もしも本当だったとしても、嫡男が鏡の中の人物と話しているなどと言えるはずもない。

「でしたら、どうすれば……」

 悩むパーシヴァルの前で、リリィは胸を張るとドンと叩いた。

「こういう時こそ、私の出番ですよ! 家のことについてよく知っているのは、何も子爵一家だけではないんです。使用人たちだって、同じくらい家のことには詳しいはずです。もっと言えば、子爵一家以上に詳しい可能性だってあります。それくらい、私たち使用人は家の隅々まで知り、些細なことでも耳にしているんです」
「しかし、使用人たちは主人以上に口が堅いものでは?」
「それは、お嬢様やパーシヴァル様のような目上の方や、外部の者に対してです。内部の人間に対しては、それほどでもないんですよ。だからこそ、こう言った噂がまことしやかに流れるんです」
「でも、フォルミコーニ家から見ればあなただって外部の人間でしょう?」
「家としてみれば外部の人間かもしれませんが、使用人としてみれば仲間なんですよ。それに、あたしは伯爵家のメイドです。子爵家のメイドと話をするのに、こんなに適した肩書はないですよ」

 リリィがニヤリと人の悪そうな笑顔を浮かべる。尖った八重歯が、やけに目を引いた。